猫の口内炎。原因と症状、治療について画像で解説(犬猫の歯医者監修)

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猫の口内炎は、歯肉炎や歯周炎などと似た症状が出ることもあるため、間違いやすいかもしれません。こちらの記事ではそんな口内炎について解説していきます。

猫の口内炎により現れる症状や、見分ける仕草

歯肉炎と口内炎の両方が認められる状態

飼育されている猫の最大26%が発症する病気です。強い痛みを伴い、症状を放置してしまうと衰弱していきます。痛みから食欲が失せるケースも多く、最悪のケースでは衰弱して亡くなってしまうこともあります。

口内炎とされる炎症の対象範囲は、唇の内側や舌や喉付近の粘膜などです。腫れたり、広範囲での炎症が起こります。

猫の口内炎には、頬の粘膜部分で炎症するケースがあります。

炎症を起こしている患部は通常真っ赤な色になり、出血しやすくなります。赤い石畳のように見えることもあるでしょう。口の奥や舌などのケースでは赤黒いアザがあるように見えることも多いです。

痛みを強く感じるため食欲が失せることが多く、体重が減ってしまいます。その他に口臭がある、よだれが多く出る、口からの出血が見られることがあります。また口内炎がある猫は痛みで毛づくろいをしなくなるため、毛並みが荒れやすくなります。毛づくろいは猫にとって本能的な行動の為、それが抑制されることでも大きなストレスがかかります。

猫が口内炎を引き起こす原因となるもの

現時点では、口内炎を発症する明確な原因は不明です。

ただ、ウィルスや細菌、歯周りの炎症(歯肉炎や歯周炎など)、免疫異常が関わっているのではないかという説もあります。いくつかの全身性の病気や、一般的な歯周病でも口内炎と似た炎症が起こることがあります。

カリシウィルスとの関連も指摘されています。また、猫白血病ウィルス(FeLV)や猫エイズ(FIV)など、猫の全身の免疫系に影響を与えるウィルス性疾患は直接関係していないように見えて、口内の炎症に影響している可能性があります。そのため実際の診断を受ける際にはこういった全身性の疾患がないかも調べて診断を受けることになります。

本当に「口内炎」?気をつけたいこと

猫の口内炎として、見誤りやすい症例としては歯肉炎や歯周炎などがあります。

こちらも歯茎など歯周りが腫れたり出血することがあるため、似た症状がでます。

歯周病は主に歯についた細菌、プラークが原因となって発生します。

実際には病院にて獣医師の診察を経て、口内炎なのか、歯周病なのかを判断していくことになります。どちらか分からない、口内に異変がある、という場合はお気軽に獣医師までお尋ねください。

猫の口内炎に気付くまで_初期症状と診断

初期症状としては以下のような様子が見受けられます。

  • 痛みがあるため、食事をとらなくなる。
  • 愛猫が食べたそうだけど食べない。
  • 歯茎や口内と頬の粘膜全体に炎症が広がっている。
  • よだれが多く出る(時に血が混ざっている)
  • 口臭がある
  • 食事中に突然鳴いたり、走りだす
  • 毛づくろいをしなくなる、少なくなる
  • 隠れてじっとしていることが多くなる

診断は、病歴や実際の口内の炎症を診て行われます。さらに口内の炎症の症状の根底に全身性の疾患がないか、血液検査と尿検査をメインに調べます。

口腔内のレントゲンを撮影し、歯根や根元の組織に損傷がないかもチェックしていきます。

簡単に口内炎かを判断する検査はありません。口内炎以外での一般的な歯周病や白血病などの全身性疾患でも似た症状が現れることがあり、それらの可能性を除外するためにも詳しく検査が行われます。

愛猫に現れる「白い口内炎」?

上記の通り、猫の口内炎は口腔粘膜の赤みという形で現れます。そのため、特にヒトの口内炎によく見られるような白色をした炎症部位は基本的には見られません。

もし白い口内炎のように見えるものが猫の口腔内や唇、口周りにあれば、別の疾患の可能性もあります。これらは「いわゆる口内炎」ではないにせよ、愛猫にとって痛みや違和感を引き起こしていたり、なんらかの感染症が起きている可能性があります。

様々な可能性が考えられるため、一度動物病院を受診いただくことをおすすめいたします。

猫の口内炎の治療方法

口内炎の治療は根底にある原因を特定出来る場合は、その原因を取り除くことと言えます。ただ、ほとんどの場合口内炎の原因は特定できません。いまだに口内炎の正確な原因は不明とされています。

原因が分からないながらも、口内炎の多くのケースは抜歯による治療を選択します。

歯があることで歯垢が付着し、免疫系等が過剰に反応して炎症を起こすと考えられているためです。歯を抜くことで歯垢が発生するのを防ぐことが狙いです。

この方法で良くなるケースは多く、抜歯後は、よく食べるようになります。歯がなくてもドライフードを食べられる子もいます。

抜歯で改善仕切らない場合や手術が困難な状態の猫では、ステロイドやインターフェロンなどの消炎剤、免疫抑制剤、脂肪酸のサプリメントを用いて追加の治療を行います。

口内炎の予後は愛猫ごとに様々ですが、多くの子は口腔内の治療を通して健康的な生活を取り戻していきます。治療前よりも痛みから解放されることで食事ができるようになったり、毛づくろいも痛みを感じず出来るようになりストレスが減ります。

治療に使用する薬

○ステロイド

過剰な免疫反応を抑えて、炎症を抑えるために使用します。副作用として食欲増加・体重増加、飲水量増加とそれに伴う尿量増加が見られます。また長期・多量に使用すると糖尿病などの疾患を引き起こすことが指摘されています。投与量を調整しながら投与することで、なるべく副作用なく、症状を抑えるようにします。

○免疫抑制剤

過剰な免疫反応を抑える際に、ステロイドによる副作用を避けるために使用します。抜歯後に完全に炎症が治らない猫ちゃんに使用します。

○抗生剤

抗生剤は口腔内粘膜に感染した細菌を抑えることで、炎症が改善することを期待して使用します。近年世界的に、抗生剤を無闇に使用しないことが推奨されています。そのため当院ではいきなり抗生剤を使用することは少ないですが、状態を見ながら長期的に使用する場合があります。

○インターフェロン製剤

インターフェロンには抗炎症作用と抗菌作用、加えて猫の免疫の増強作用によって、歯肉の炎症を軽減させることができると考えられています。状態によりますが数日に1回、粉状の薬を投与します。粉末をごはんにかけたり、溶かして液体として口の中に投与します。

○脂肪酸サプリメント

エステル型飽和脂肪酸複合体が含まれる動物用サプリメントが猫の口内炎、歯周病に効果が期待できるとされています。

注射による投与

○長期作用型ステロイド剤

1回の投与で数週間有効なステロイド剤があり、内服薬の投与が困難な猫で用いられることがあります。使い始めは効果があるのですが、長期的に投与し続けると効果が低下してきたり、糖尿病など副作用が出てくる可能性があります。そのため当院では基本的には使用せず、手術などの治療が困難かつ内服治療も難しい場合などに限って使用します。

○長期作用型抗生剤

1回の投与で2週間程度有効な抗生剤です。お薬を飲むことが難しい場合、投薬の負担を軽減したい場合に使用します。

そのほかにも効果が見込まれる注射剤による治療があります。詳しくはオンライン相談または、当院やかかりつけの獣医さんを受診した際に、獣医師にご相談ください。

重症・難治性の猫口内炎についての対応

部分的、または全ての歯の抜歯を行っても症状が改善せず、投薬での治療を長期間行っても再発する口内炎は難治性口内炎と呼ばれています。難治性口内炎は、一般的な治療法では改善が見込めない厄介な病状です。

この病状の管理には、継続的な症状の観察と獣医師との密接な協力が不可欠です。難治性口内炎を抱える猫のケアには、痛みを管理し、可能な限り快適な生活を送れるよう定期的な健診と適切な医療介入によりサポートを行うことが大切です。また近年では、再生医療による治療への期待も高まっています。

治療費について

治療費は動物病院や治療方法により異なります。全顎抜歯を選択した場合は、15万~25万円前後の手術費用が掛かると思われます。当院では基本的に日帰りでの手術を行っております。追加での内服治療を行った場合、月に数千円~数万円程度のお薬代などがかかると予想されます。

猫の口内炎を予防するためには

猫の口内炎はその原因が明確に判明していないこともあり、原則難しいものとなります。免疫の異常であるという説があることから体質的なものであり、一定数の猫がどうしても罹ってしまう病気であると考えられます。

口内炎を患うと痛みのために満足な食事ができなくなり、衰弱を引き起こします。どの猫も発症する可能性を抱えている以上、愛猫の普段の様子に常に気を配り、異常を早期に発見し適切な処置をなるべく早く受けることが口内炎への一番の対策であると考えます。

また同時に、定期的な獣医師による健診を行い、口内炎の初期症状や原因となりうる異変を早期に見つけ出すことも有効な手となります。

私たちはパートナーの体調に根本から向き合い、健康寿命を支える動物病院です

KINS WITH 動物病院では、愛犬・愛猫やご家族の根本に向き合った診療を心がけています。病気を治すことだけではなく、より永い健康寿命のために何をすべきか、どのように犬猫の健康と向き合っていくのかなど、セルフケアやご家族の心にも寄り添った診療を行います。
毎日多くの診察を行うだけでなく、休日には研究室に通いながら犬猫の未来の健康をつくる研究を熱心に行う、日々犬猫に向き合い続けている獣医師が在籍しています。
多くの経験と知識、適切な検査をもとに、愛犬・愛猫の状態をしっかり把握したうえで、ご家族にわかりやすくご説明をし、一緒にケア方針を立てていきます。