犬の歯石取り。治療法と予防、除去の仕方について(犬猫の歯医者監修)

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「愛犬の歯が黄色い…。」「お口がくさい…。」

そんなお悩みはありませんか?もしかしたら、原因は歯石かもしれません。

わんちゃんの歯に付着する歯石は、さまざまなお口のトラブルの原因です。お口の異常をそのままにしておくと、怖い病気につながってしまうことも。

歯石が溜まってトラブルが起こる前に、飼い主さまが予防してあげることが大切です。

今回は、歯石が付く仕組みや歯石の取り方、予防法などについて解説します。

歯石が付く仕組み

歯石とは、口の中の食べかすや細菌が集まってできる歯垢(プラーク)が石灰化して固まったものです。

わんちゃんがごはんを食べてから数時間後には、歯に溜まったバクテリアや唾液、食べかすによってプラークが作られます。プラークは透明な粘着性の物質で、見ただけではわかりません。

プラークが歯から取り除かれないままだと、唾液に含まれるミネラル成分によって石灰化し、硬い歯石になって固着してしまいます。さらに、歯石が付いた歯の表面がざらざらになり、歯垢や歯石が溜まりやすくなる悪循環に陥ります。

わんちゃんの歯が黄色くなったり口臭がきつくなったりしたら、歯石が付着しているサインです。一度歯石が付いてしまうと、セルフケアで取り除くことはできません。歯石除去には獣医師の処置が必要になります。

また、わんちゃんの口の中はアルカリ性で、人間と違って虫歯にはなりづらい反面、歯石が付きやすい環境です。プラークが歯石に変わるまでの時間は、わずか2~3日ほどしかありません。そのため、歯石を予防するには毎日の歯磨きがとても重要です。

歯石の予防はどの年齢や犬種でも必要ですが、特に小型犬や短頭種は注意が必要です。口が小さく歯が密集しているため、歯垢や歯石が溜まりやすいとされています。

歯石の画像

わんちゃんのお口に歯石が付着すると、どのような状態になってしまうのでしょうか。画像を見てみましょう。

こちらは比較的軽度な歯石。歯の側面が黄色くなっている箇所については、歯石が付着しています。さらに進行するとよりわかりやすくなりますね。

こちらは歯石の付着がわかりやすく進行している状態です。先ほどは歯の側面に黄色の歯石が付着していましたが、こちらは歯茎と歯の境目まで広範囲に歯石が付着しています。

歯石は全て黄色いとは限りません。こちらの例のように白っぽく付着することもしばしば。こちらの例でも、よく見ると白い歯石が歯茎の付け根から広範囲に付着していることがわかります。

歯石を取らないとどうなる?

わんちゃんの歯に歯石が溜まり続けると、細菌が繁殖して感染を引き起こします。細菌感染は最終的に口だけでなく、骨や臓器などの体全体に悪影響を及ぼすこともあります。

歯やその周辺組織に細菌感染が発生した状態を、「歯周病」といいます。3歳以上のわんちゃんの80%が歯周病になっているという報告もあるほど、わんちゃんにとって身近な疾患です。

細菌感染が引き起こす歯周病の症状について、段階に分けてご紹介します。

歯肉炎

歯肉炎は、歯周病の初期段階です。蓄積した歯石によって細菌が繁殖し、歯茎に炎症を起こします。主な症状は歯茎の赤みや腫れ、出血などで、口臭もみられます。

歯肉炎は歯石除去や抗生物質などの治療で完治可能で、歯や周辺組織の損傷を最小限に抑えることができます。

歯周炎

炎症が歯茎の奥に進行している状態です。歯と歯茎の間の「歯周ポケット」が深くなり、歯茎が後退します。また。歯や周辺組織が損傷を受け、歯を支える骨などが溶け始めます。

一度損傷した歯や組織は、治療しても元に戻すことはできません。治療には抜歯や組織の除去が必要になることもあります。

歯槽膿漏/歯根膿瘍

重度の歯周病になると、歯の根元の「歯根(しこん)」などの深い部分に膿が溜まるようになります。「歯槽膿漏(しそうのうろう)」と呼ばれる状態です。

歯茎から血や膿が出て、ひどい口臭や痛みがみられます。歯を支える骨が溶けることで歯がぐらつくようになるほか、悪化すると頬に穴が開いて膿が出たり、あごの骨が折れたりすることもあります。

臓器の疾患

歯周病が影響するのは、口だけではありません。細菌が血流に運ばれてわんちゃんの体全体に広がり、臓器でも感染症を引き起こす可能性があります。

特に重大な影響を受けるのが心臓と腎臓、肝臓です。細菌性心内膜炎や腎不全などが発症するとわんちゃんの命に関わることもあり、取り返しがつきません。

歯石の取り方と予防法

歯石の付着や歯周病によるトラブルを防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。

歯石の予防には毎日の歯磨きが最も効果的ですが、一度付いた歯石はセルフケアでは取れません。獣医師による「スケーリング」という歯石除去の処置が必要です。また、飼い主さま自身による歯石除去はわんちゃんのお口を傷付ける危険性があるため、おすすめできません。

スケーリングの概要や正しい歯磨きの方法についてご紹介します。

歯石除去(スケーリング)

専門の器具を使った歯石除去の処置を「スケーリング」といいます。

通常、スケーリングの処置には全身麻酔が必要です。麻酔後、まずは歯科レントゲンで歯根の状態を確認し、炎症の進行や組織の損傷の程度、必要な処置を判断します。

専用の器具で歯の表面や歯周ポケットの歯石をきれいに取り除いたあと、最後に歯の表面をツルツルに磨いて仕上げます。歯の表面の細かい傷をなめらかにすることで、歯石が付きやすくなるのを防ぐための処置です。

全身麻酔は必要?

無麻酔で歯石除去を行なうペットサロンなどもあるようですが、わんちゃんの安全や歯石除去の効果の面から、無麻酔での処置はおすすめできません。

麻酔をかけずに奥歯や歯周ポケットなど隅々まできれいにすることは、ほとんど不可能です。見える範囲の歯石だけを除去したとしても、歯周ポケットなどの見えない部分に歯石が残っていれば細菌は繁殖し続け、歯周病の予防には意味がありません。

また、歯石を削り取ることで歯の表面に細かい傷が付いてざらざらになり、歯石が付きやすくなります。わんちゃんにとって痛みや恐怖などのストレスが大きく、口を触られるのを嫌がるようになることも考えられます。

全身麻酔と聞くと、麻酔事故などのリスクを心配する飼い主さまもいらっしゃると思います。確かにリスクはゼロではありませんが、現代の医療技術や設備において、健康なわんちゃんが全身麻酔で命を落とす可能性は、自動車事故で怪我をする可能性よりも低いとされています。また、術前には血液検査を行ない、健康状態に問題がないかを確かめます。麻酔をかけることで隅々まで歯石を除去することができて、わんちゃんの痛みや恐怖などの負担も減らせるのです。

理想的な頻度は?

口腔内の状態は変化しやすいため、半年~1年に1回ほど歯科検診やスケーリングを受けることが望ましいです。

歯石が溜まっているように見えなくても、見えない部分で歯周病が進んでいるケースもあります。定期的に動物病院を受診し、歯の様子をチェックしてもらいましょう。

費用はどのくらい?

スケーリングにかかる費用は、術前の健康診断や麻酔、顕微鏡を用いた施術そのものを含め約100,000円ほどです。

歯の状態や動物病院によって多少異なりますので、かかりつけの動物病院にご確認ください。

歯磨き

わんちゃんのお口の健康を守るために一番大切なことは、毎日の歯磨きです。スケーリングで歯石を取り除いたあとも日常的なケアをしなければ、またすぐに歯石が溜まってしまいます。

わんちゃんの歯磨きは、最初はハードルが高く感じるかもしれませんが、少しずつ慣れさせて根気強く取り組みましょう。効果的な手順やおすすめのデンタルケア用品をご紹介します。

わんちゃんが歯磨きを嫌がる場合は、まずは口を触ったり歯ブラシをなめさせたりしながら、少しずつ慣れさせましょう。根気強く毎日続けることで、わんちゃんも上手に歯磨きさせてくれるようになりますよ。

慣れてきたらペット専用の歯ブラシや歯磨き粉を使い、しっかり唇をめくって歯や歯茎の間を優しく丁寧に磨きましょう。人間用の歯磨き粉にはわんちゃんにとって有害な成分が含まれている可能性があるため、必ずわんちゃん用のデンタルケア製品を使うようにしてください。

自分で歯石取りするのは危険!

ペットショップやインターネットなどで、歯石取りの効果を謳った製品が数多く販売されているのを目にしますよね。しかし、これらの製品を使って飼い主さま自身が歯石を取ろうとすることは、おすすめできません。その理由についてご説明します。

スケーラーやペンチ

歯石を削ったり挟んだりするためのスケーラーやペンチですが、専門の知識や技術を持たない飼い主さまがわんちゃんのお口に使うのはとても危険です。

第一に、わんちゃんが急に動いたときに口の中を傷付ける危険性があります。もしわんちゃんがおとなしく動かずにいたとしても、歯周ポケットの歯石を完全に取り除くことはできないので、歯周病の原因は残ったままです。さらに、表面のエナメル質に傷が付くことで、余計に歯石が溜まりやすい状態になってしまいます。

また、ペンチの使用は歯を折るリスクもあり、さらに危険なものとなります。

専門の器具を使った処置は獣医師の先生に任せ、安全に歯石を除去してもらいましょう。

鹿の骨やひづめ

「骨や角をかじることで歯石が取れる」と聞いたことがあるかもしれません。しかし、硬いものをかむことで歯が折れたり消化器官を傷付ける危険性が高く、注意が必要です。

確かに歯石がこすり落とされる可能性はありますが、わんちゃんが硬いものをかむのに使う歯は限られているため、歯磨きの代わりにはなりません。デンタルケアの効果よりも歯や消化器官が傷つくリスクが上回るため、与えないことをおすすめします。

また、デンタルケア用として売られているガムであっても、硬すぎるものは危険です。わんちゃんがかんで問題ない硬さかどうかを、飼い主さま自身が確認してから与えてくださいね。

まとめ

わんちゃんの歯に溜まった歯石は歯周病の原因となり、悪化すると骨や臓器にも重大な影響を及ぼす可能性があります。取り返しのつかない状態になる前に、毎日の歯磨きや定期的な歯科検診で予防することが重要です。

また、歯石が付いてしまったら早めに動物病院での歯石除去(スケーリング)を受け、歯周病の進行を防ぎましょう。飼い主さま自身での歯石除去は、わんちゃんの口を傷付けるリスクが大きく、歯周病予防の面でも効果的とはいえません。

わんちゃんのきれいな歯とお口の健康を守ってあげられるのは飼い主さまだけです。愛犬のお口の様子を日ごろから観察し、変化に気付けるようにするとよいでしょう。

歯石の予防や除去について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

担当医師のご紹介
二子玉川院 院長 岡田 純一

KINS WITH動物病院、院長の岡田純一です。当院では愛犬さん、愛猫さん、ご家族の抱えるトラブルに対し、症状をなくすことはもちろん、なるべく根本から解決することを目指しています。
高性能な機器を用いた安全で正確な処置はもちろん、常在菌に着目したアプローチや、お家での生活に対するアドバイスまで丁寧に対応致します。
もちろん手技の技術を向上させるための鍛錬も日々欠かさず行なっております。
愛犬さん、愛猫さんとご家族が元気いっぱいで幸せな時間をなるべく長く過ごすお手伝いができるよう、努めて参ります。よろしくお願い致します。