犬の歯石取り。治療法と予防、除去の仕方について(犬猫の歯医者監修)

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「愛犬の歯が黄色い…。」「お口がくさい…。」

そんなお悩みはありませんか?もしかしたら、原因は歯石かもしれません。

犬の歯に付着する歯石は、さまざまなお口のトラブルの原因です。お口の異常をそのままにしておくと、怖い病気につながってしまうことも。

歯石が溜まってトラブルが起こる前に、飼い主さまが予防してあげることが大切です。

今回は、歯石が付く仕組みや歯石の取り方、予防法などについて解説します。

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歯石の画像と、歯石取りの目安について

犬種や病状ごとの差はあるものの、当院では平均して「年に一度」の頻度での歯石取りを推奨しています。歯石の付着は、さまざまなお口のトラブルの始まり。放っておくと抜歯が必要になったり、骨や臓器に悪影響を与えるような感染症に発展することもあります。愛犬が美味しいご飯を毎日、この先ずっと楽しめるよう定期的なお口のケアを行いましょう。

それでは、動物病院にて歯石取りを行う目安となる状態を、画像で解説いたします。犬のお口に歯石が付着すると、どのような状態になってしまうのでしょうか。

1.歯石のついていない歯

まずは歯石の付いていない正常な歯の状態を確認しましょう。こちらは、歯石取りの施術を行った直後の歯の様子です。歯の表面は白くツヤがあり、表面がなめらかなために輝いているようにも見えます。

2.軽度な歯石

こちらは軽度な歯石の様子です。歯の表面からツヤが失われ、所々曇った色合いになっていることが確認できます。通常であれば滑らかであるはずの歯に歯石が付くことにより、歯の表面は凹凸ができた状態となりツヤが失われます。また、歯茎と歯の境目には黄色い歯石が付着していることが見てとれます。

歯石の色は白っぽいものから黄色のものまで、いくつかの種類があります。特にこちらのような軽度なものについては見落としやすいため、普段から愛犬のお口の状態に意識を向けておくことが大切です。

今回のケースではまだ軽度な歯石であったこともあり、歯周病をはじめとしたお口のトラブルには発展していませんでした。この程度の状態で病院にかかることができれば、さまざまなお口のトラブルを未然に防ぎ、老犬になるまで歯を長く残していくことが可能になります。

こちらも比較的軽度な歯石。ですが、先述のものよりもかなりわかりやすく歯石の付着を見ることができます。歯の側面が黄色くなっている箇所については、歯石が付着しています。歯石の状態がこれくらいになると、しばしば歯周病を引き起こす可能性が出てきます。不快な口臭をはじめ、歯茎の赤みや出血などが見られれば、速やかに治療を行うことが必要です。軽度な歯周病であれば、抜歯を行わず歯石取りのみで症状を改善させることが可能です。

3.中程度の歯石

こちらは歯石の付着がわかりやすく進行している状態です。先ほどは歯の側面に黄色の歯石が付着していましたが、こちらは歯茎と歯の境目まで広範囲に歯石が付着しています。多くの場合で軽度の歯周病(歯肉炎)が発生しています。

見た目にも歯石が分かりやすい状態となっておりますので、飼い主さまが気づいたタイミングで速やかに動物病院を受診することをおすすめいたします。

4.重度の歯石

こちらは重度の歯石が付着した犬の様子です。明らかに大きな歯石の塊が見てとれます。お口のトラブルの有無に関わらずすぐにでも処置が必要な状態です。多くの場合は歯周病を併発しており、その状態によっては歯石取りではなく抜歯の処置が必要になる段階です。

私たちKINSWITH動物病院では、可能であれば「2.軽度な歯石」の時には歯石取りの施術を受けることをおすすめしています。もしなんらかの理由で難しい場合でも「3.中程度な歯石」の状態の頃には必ず病院にかかるようにしましょう。

一度失った歯はもとには戻りません。歯を失ってしまう前に、こまめな歯石取りの実施をおすすめいたします。

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歯石が付く仕組み

歯石とは、口の中の食べかすや細菌が集まってできる歯垢(プラーク)が石灰化して固まったものです。

犬がごはんを食べてから数時間後には、歯に溜まったバクテリアや唾液、食べかすによってプラークが作られます。プラークは透明な粘着性の物質で、見ただけではわかりません。

プラークが歯から取り除かれないままだと、唾液に含まれるミネラル成分によって石灰化し、硬い歯石になって固着してしまいます。さらに、歯石が付いた歯の表面がざらざらになり、歯垢や歯石が溜まりやすくなる悪循環に陥ります。

愛犬の歯が黄色くなったり口臭がきつくなったりしたら、歯石が付着しているサインです。一度歯石が付いてしまうと、セルフケアで取り除くことはできません。歯石除去には獣医師の処置が必要になります。

また、犬の口の中はアルカリ性で、人間と違って虫歯にはなりづらい反面、歯石が付きやすい環境です。プラークが歯石に変わるまでの時間は、わずか2~3日ほどしかありません。そのため、歯石を予防するには毎日の歯磨きがとても重要です。

歯石の予防はどの年齢や犬種でも必要ですが、特に小型犬や短頭種は注意が必要です。口が小さく歯が密集しているため、歯垢や歯石が溜まりやすいとされています。

歯石を取らないとどうなる?

犬の歯に歯石が溜まり続けると、細菌が繁殖して感染を引き起こします。細菌感染は最終的に口だけでなく、骨や臓器などの体全体に悪影響を及ぼすこともあります。

歯やその周辺組織に細菌感染により炎症が発生した状態を、「歯周病」といいます。3歳以上の犬の80%が歯周病になっているという報告もあるほど、犬にとって身近な疾患です。

細菌感染が引き起こす歯周病の症状について、段階に分けてご紹介します。

歯肉炎

歯肉炎は、歯周病の初期段階です。蓄積した歯石によって細菌が繁殖し、歯茎に炎症を起こします。主な症状は歯茎の赤みや腫れ、出血などで、口臭もみられます。

歯肉炎は歯石除去や抗生物質などの治療で完治可能で、歯や周辺組織の損傷を最小限に抑えることができます。

歯周炎

炎症が歯茎の奥に進行している状態です。歯と歯茎の間の「歯周ポケット」が深くなり、歯茎が後退します。また。歯や周辺組織が損傷を受け、歯を支える骨などが溶け始めます。

一度損傷した歯や組織は、治療しても元に戻すことはできません。治療には抜歯や組織の除去が必要になることもあります。

重度に進行すると歯槽膿漏と呼ばれることがあります。歯茎から血や膿が出て、ひどい口臭や痛みがみられます。歯を支える骨が溶けることで歯がぐらつくようになるほか、悪化すると頬に穴が開いて膿が出たり、あごの骨が折れたりすることもあります。

臓器の疾患

歯周病が影響するのは、口だけではありません。細菌が血流に運ばれて犬の体全体に広がり、臓器でも感染症を引き起こす可能性が指摘されています

特に重大な影響を受けるのが心臓と腎臓、肝臓です。細菌性心内膜炎や腎不全などが発症すると犬の命に関わることもあり、取り返しがつきません。

歯石の取り方と予防法

歯石の付着や歯周病によるトラブルを防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。歯石の予防には毎日の歯磨きが最も効果的ですが、一度付いた歯石はセルフケアでは取れません。獣医師による「スケーリング」という歯石除去の処置が必要です。また、飼い主さま自身による歯石除去は犬のお口を傷付ける危険性があるため、おすすめできません。

スケーリングの概要や正しい歯磨きの方法についてご紹介します。

歯石除去(スケーリング)

専門の器具を使った歯石除去の処置を「スケーリング」といいます。

通常、スケーリングの処置には全身麻酔が必要です。麻酔後、まずは専用の器具を用いて歯茎の状態や感染状況を把握します。その後、歯科レントゲンで歯根や顎骨の状態を確認し、炎症の進行や組織の損傷の程度、必要な処置を判断します。

専用の器具で歯の表面や歯周ポケットの歯石をきれいに取り除いたあと、最後に歯の表面をツルツルに磨いて仕上げます。歯の表面の細かい傷をなめらかにすることで、歯石が付きやすくなるのを防ぐための処置です。

理想的な頻度は?

口腔内の状態は変化しやすいため、半年~1年に1回ほど歯科検診やスケーリングを受けることが望ましいです。

歯石が溜まっているように見えなくても、見えない部分で歯周病が進んでいるケースもあります。定期的に動物病院を受診し、歯の様子をチェックしてもらいましょう。

費用はどのくらい?

当院のスケーリングにかかる費用は、術前の健康診断や麻酔、顕微鏡を用いた施術そのものを含め約100,000円です。

費用は、歯の状態や動物病院、治療方法によって多少異なりますので、かかりつけの動物病院にご確認ください。

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歯磨き

犬のお口の健康を守るために一番大切なことは、毎日の歯磨きです。スケーリングで歯石を取り除いたあとも日常的なケアをしなければ、またすぐに歯石が溜まってしまいます。

愛犬の歯磨きは、最初はハードルが高く感じるかもしれませんが、少しずつ練習して根気強く取り組みましょう。効果的な手順やおすすめのデンタルケア用品をご紹介します。

犬が歯磨きを嫌がる場合は、まずは口を触ったり歯ブラシをなめさせたりしながら、少しずつ慣れさせましょう。根気強く毎日続けることで、犬も上手に歯磨きさせてくれるようになりますよ。

慣れてきたらペット専用の歯ブラシや歯磨き粉を使い、しっかり唇をめくって歯や歯茎の間を優しく丁寧に磨きましょう。人間用の歯磨き粉には犬にとって有害な成分が含まれている可能性があるため、必ず犬用のデンタルケア製品を使うようにしてください。

麻酔の安全性と無麻酔治療のリスク

無麻酔で歯石除去を行なうペットサロンなどもあるようですが、犬の安全や歯石除去の効果の面から、無麻酔での処置はおすすめできません。

麻酔をかけずに奥歯や歯周ポケットなど隅々まできれいにすることは、ほとんど不可能だと考えています。見える範囲の歯石だけを除去したことで改善が見込めることもあります。、もし、歯周ポケットなどの見えない部分に歯石が残っていた場合、細菌は繁殖し続け、また悪化してしまう可能性が高いと思います。

また、無理に歯石を削り取ることで歯の表面に細かい傷が付いてざらざらになり、歯石が付きやすくなります。犬にとって痛みや恐怖などのストレスが大きく、口を触られるのを嫌がるようになることも考えられます。

全身麻酔と聞くと、麻酔事故などのリスクを心配する飼い主さまもいらっしゃると思います。確かにリスクはゼロではありませんが、現代の医療技術や設備において、健康な犬が全身麻酔で命を落とす可能性は、自動車事故で怪我をする可能性よりも低いとされています。また、術前には血液検査を行ない、健康状態に問題がないかを確かめます。麻酔をかけることで隅々まで歯石を除去することができて、犬の痛みや恐怖などの負担も減らせるのです。

麻酔に対しての当院の向き合い方と、必要なシーンとリスク管理についてはこちらの記事でご紹介しております。もしご興味おありの方がいらっしゃれば、合わせてご確認ください。

自宅での歯石取りは原則できません。

ペットショップやインターネットなどで、歯石取りの効果を謳った製品が数多く販売されているのを目にしますよね。しかし、これらの製品を使って飼い主さま自身が歯石を取ろうとすることは、おすすめできません。その理由についてご説明します。

1.器具が危険である

歯石を削ったり挟んだりするためのスケーラーやペンチですが、専門の知識や技術を持たない飼い主さまが犬のお口に使うのはとても危険です。

第一に、犬が急に動いたときに口の中を傷つける危険性があります。さらに、表面のエナメル質に傷が付くことで、余計に歯石が溜まりやすい状態になってしまいます。

また、ペンチの使用は歯を折るリスクもあり、さらに危険なものとなります。

専門の器具を使った処置は獣医師に任せ、安全に歯石を除去してもらいましょう。

2.歯が折れる危険がある

「骨や角をかじることで歯石が取れる」と聞いたことがあるかもしれません。しかし、硬いものをかむことで歯が折れたり消化器官を傷付ける危険性が高く、注意が必要です。

確かに歯石がこすり落とされる可能性はありますが、犬が硬いものをかむのに使う歯は限られているため、歯磨きの代わりにはなりません。デンタルケアの効果よりも歯や消化器官が傷つくリスクが上回るため、与えないことをおすすめします。

また、デンタルケア用として売られているガムであっても、硬すぎるものは危険です。犬がかんで問題ない硬さかどうかを、飼い主さま自身が確認してから与えてくださいね。

3.そもそも除去することが難しい

歯石は歯の様々なところに付着します。例えば、歯の裏側であったり隣り合った歯の隙間であったり、歯茎に隠れている部分にも歯石は付着しています。自宅で専門の器具なしに、これらの歯石を取り去ることは困難です。もし仮に表面のわかりやすいところの歯石が除去できたとしても、歯周ポケットの歯石を完全に取り除くことはできないので歯周病の原因は残ったままとなってしまいます。

4.すぐに新たな歯石が付いてしまう

自宅で歯石を取り除いても、すぐに新たな歯石が付いてしまいます。ご自宅の設備で歯石を完全に取り去ることはほとんど不可能です。残された歯石の表面はざらざらとしており、健康な歯よりも歯石の原因となる歯垢がつきやすい状態となっています。また動物病院で歯石取りを行う際には施術の最後に必ず「ポリッシング」という工程を行います。歯に付いてしまった小さな傷や細かな汚れを除去し、歯の表面を磨いて滑らかにします。磨くことで歯石の原因となる歯垢の付きづらい歯になるよう整えます。、

結論、自宅での歯石取りは難しい

上記の理由から自宅での歯石取りは、怪我の大きなリスクがある一方でお口のトラブルを防ぐという意味では効果が低いケースが多いです。特別な場合を除き、獣医師の施術にお任せください。

「歯石」ではなく「歯垢」を落とす作業は非常に有効です

なお、歯石に変わる前の「歯垢」であれば、ご家庭でも落とすことができます。日々の歯垢ケアは歯石の付着するサイクルを遅らせることに非常に有効です。代表的な歯磨きをはじめ、シートやおやつなど様々な方法がございます。詳しくは以下の記事でご説明しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

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愛犬の状態と、それに合わせた病院の選び方

歯石取りの処置は愛犬の状態によりその工程が異なります。

  • 歯周病などの疾患を併発しているか
  • 歯を残すことができるか
  • 麻酔に対するアレルギーがないか
  • 持病がないか

施術の内容によっては、設備により対応できる病院とできない病院が存在します。また、歯石取りそのものを行うことができず、内服薬による治療を行うケースもあります。

特に、歯周病を併発しているケースではその重症度次第では抜歯を提案されることも少なくありません。確かに、歯周病は歯石の付着による歯周病菌の増殖により発症するため、歯石がつく原因である「歯そのもの」を抜いてしまうことは有効な対処法であることに間違いはありません。

一方で、食べ物が噛めなくなってしまうことは愛犬の毎日の楽しみを奪ってしまう可能性があります。もし歯を残す治療を希望する場合は「歯科レントゲン」をはじめ、歯と歯茎の状態をしっかりと確認できる設備のある動物病院を受診することが必要です。

もちろん抜歯が必要になる前に歯石取りの処置を行うことがベストではありますが、もし抜歯の必要が出てきてしまった際には、希望を捨てず上記のことを思い出していただけますと幸いです。

KINSWITH動物病院での治療例

以下、KINSWITH動物病院での歯石取りの治療例を掲載いたします。

私たちは高度な歯科処置に必要な医療機器を取り揃えた上で、年間300件以上の歯科処置を行う獣医師の技術をもって処置を行います。全ては愛犬の幸せな毎日を1日でも長く未来に繋げるための準備です。

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症例のご紹介

様々な犬種、歯の状態をもつ愛犬たちの施術の一部をご紹介します。参考となれば幸いでございます。

医療機器のご紹介

歯科レントゲン

通常のレントゲンよりも画素数が多く、口腔の詳細まで確認できるレントゲンです。歯の状態や歯周病の進行状況を確認できるため、不必要な抜歯を行わずあらゆる症例に対して適切な処置を選択することが可能となります。

マイクロスコープ(高性能顕微鏡)

都内でも導入院数が少ない高性能顕微鏡です。肉眼では確認できないレベルの細かい歯石が確認できるため、歯一本一本を丁寧にクリーニングすることができます。また、詳細に見えることで治療する箇所以外の組織を傷つけにくい処置が可能です。

歯科ユニット

歯科治療に必要なドリルやスケーラーなどの道具がそろった機材です。歯科ユニットを持つことで、正確かつ幅広い治療が可能です。

犬の歯石とりのまとめ

犬の歯に溜まった歯石は歯周病の原因となり、悪化すると骨や臓器にも重大な影響を及ぼす可能性があります。取り返しのつかない状態になる前に、毎日の歯磨きや定期的な歯科検診で予防することが重要です。

また、歯石が付いてしまったら早めに動物病院での歯石除去(スケーリング)を受け、歯周病の進行を防ぎましょう。飼い主さま自身での歯石除去は、犬の口を傷付けるリスクが大きく、歯周病予防の面でも効果的とはいえません。

犬のきれいな歯とお口の健康を守ってあげられるのは飼い主さまだけです。愛犬のお口の様子を日ごろから観察し、変化に気付けるようにするとよいでしょう。

歯石の予防や除去について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

担当医師のご紹介
二子玉川院 院長 岡田 純一

KINS WITH動物病院、院長の岡田純一です。当院では愛犬さん、愛猫さん、ご家族の抱えるトラブルに対し、症状をなくすことはもちろん、なるべく根本から解決することを目指しています。
高性能な機器を用いた安全で正確な処置はもちろん、常在菌に着目したアプローチや、お家での生活に対するアドバイスまで丁寧に対応致します。
もちろん手技の技術を向上させるための鍛錬も日々欠かさず行なっております。
愛犬さん、愛猫さんとご家族が元気いっぱいで幸せな時間をなるべく長く過ごすお手伝いができるよう、努めて参ります。よろしくお願い致します。