【猫のFIP】原因と症状、治療について

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ねこちゃんと一緒に暮らしている方のなかで、FIPという病気を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。

発症したら最後、治療しなければ治らず急なスピードで亡くなってしまう、治療にかかる費用が非常に高額というイメージを持っている方も多いかもしれません。

この記事では、そんなFIPという病気について解説していきます。

FIPの概要と症状

猫伝染性腹膜炎(FIP)は多くのねこちゃんが発症する病気ではありませんが、発症するとほとんどの場合致命的な結果を引き起こす病気です。全ての年齢のねこちゃんに発症する可能性はありますが、2歳未満の若いねこちゃんに良く見られます。

ねこちゃんの間で割と高い割合で保有している「ネココロナウィルス」というウイルスが体内で変異することによりFIPは発症します。ウィルスが体内で変異し、発症にいたる割合としてはウィルスに感染したねこちゃんのうち5%未満程度です。治療しなかった場合、発症から亡くなるまでのスピードがとても早くなってしまうケースがあります。

最初の兆候としては無気力、無気力、食欲減退または食欲不振、体重減少、熱が出るなどがあります。これらの兆候から通常、数日から数週間後に他の症状が現れ始めます。症状の特徴から大きく分けて以下の二つに分類されていますが、両方のタイプの症状が出ることもあります。

ウェットタイプ

血管が損傷を受け炎症を起こすことにより、液体が血液から腹腔や胸部に漏れ出してきます。その体液が溜まり、腫れたり呼吸が困難になることがあります。体液が溜まることでお腹が太鼓腹のような見た目になることがあります。溜まる液体は濃くて明るい黄色で、多くのタンパク質が含まれています。

ドライタイプ

ウィルスと炎症細胞の塊である肉芽腫が形成されます。眼、あるいは脳に炎症が出ることが多いようですが、肝臓や腎臓、他の内臓など体内のあらゆる臓器に炎症が出る可能性があります。そのため、神経学的な病症としてぐらつきや歩行が困難になったり、眼からの出血、肝臓や腎臓などの内臓系で異変が見られるなど、広範囲の病症が現れることがあります。

原因

FIPは、ネココロナウィルスと呼ばれるウイルスに関連しています。

ネココロナウィルスの中でもFECV(猫腸コロナウイルス)と呼ばれる種類のウィルスが突然変異を起こすことによりFIPV(猫伝染性腹膜炎ウイルス)へと変異することにより発症するとされています。

FECV(猫腸コロナウイルス)自体は家庭にいるねこちゃんの2割から4割程度、複数のねこちゃんがいる家庭やシェルターなどでは8割以上のねこちゃんが保有しているとされ、ほとんど病原性も示しません。多くの場合は無症状化、軽度の下痢を引き起こす程度で、治療しなくても治る場合が多いです。

ウイルスに感染したねこちゃんの内、5%未満程度の割合で体内でこのウイルスが変異しFIPを発症します。なぜウイルスが変異し発症にいたるかの原因はストレスや遺伝、免疫等多くの説があるものの、未だ確定的なことは分かっていません

FIPに気付くまで_自己診断と初期症状

FIP の診断に特有の臨床的徴候がなく、初期の兆候も漠然としているため、自己診断が非常に難しい疾患です。初期の兆候としては高熱が出る、無気力、食欲がないなどがあります。ただ以下の複数を満たす場合など、FIPの可能性が高いと見なします。

  • 高熱が出たり、無気力や食欲不振などがある。
  • FIPと一致する臨床症状が出ている。(お腹に水が溜まっているなど)
  • 発症のリスクが高い若いねこちゃんであったり、過密環境で暮らしているなどストレスがかかる環境で暮らしている。

自己診断が難しいことや発症から悪くなっていくスピードが大変急速なため、不安に感じたら早めに獣医師の診断を受けてください。

病院では血液検査の他に、レントゲンやMRIを行ったり、腹水が溜まっていないかチェックする、溜まっていた場合は腹水を分析するなどして診断を確定していきます。

FIPの予防

ねこちゃんのFIP を確実に予防する唯一の方法は、

そもそもの原因となるネココロナウィルスに感染をさせないことと言えます。

感染しているねこちゃんと別のねこちゃんの生活スペースを分けるなど、私たちが出来ることがどんなことがあるか、まとめてみました。

過密環境について

特にねこちゃんが過密に暮らさなければならなくなる状況を避けましょう。過密のストレスを最小限に抑えるために、1部屋あたり3匹以下の目安でねこちゃんが暮らせるようにお勧めします。

トイレやごはんのお皿の配置について

トイレは清潔に保ち、食べ物や水を入れる皿から離して配置するなどの工夫も有用です。

ねこちゃんに対して十分な数のトイレを用意し、希釈した漂白剤(目安1:32)などを用いて清潔にしておくことが好まれます。

新しくねこちゃんをお迎えする時

ねこちゃんを新しくお迎えする際には、ウィルスに感染している疑いのあるねこちゃんをしばらく隔離します。3ヵ月ほど待つと良いそうですが、それでもそれより前にウィルスにかかっていてキャリア状態のねこちゃんからはうつる可能性があります。その場合は感染しているねこちゃんと生活スペースを分けるなどの暮らし方の工夫が必要です。

ワクチンについて

FIP自体を予防する効果的なワクチンは現在まだありません。

近年、一部のメーカーは FIP の予防に役立つワクチンを開発していますが、FIPの疾患に至る事象の順序はよくわかっておらず、母子感染などワクチン接種前に感染が発生している可能性があるため、ワクチン接種による予防は推奨されていません。

ただ、猫白血病ウイルスやカリシウイルスなどの他のウイルスによる感染予防のため、必要に応じて適切なワクチン接種を行うことで、ねこちゃんの健康を保ち、FIPを発症する可能性を下げられる可能性があります。

FIPの治療について

FIPは最近まで治療不可能な病気と考えられてきましたが、最近はいくつかの抗ウィルス薬が有効なのではないかと研究されています。

例えばレムデシビルという薬剤は、治療実績も多数あります。この薬は、新型コロナウィルスを含むヒトのウイルス感染症の治療に使用されています。ただし治療は依然として高価であり、84日間の長い治療期間を要します。

一方で、基本的に現在国内で動物用に認可されたFIPの薬はありません。国内で合法的な薬が一般的になれば保険の適用なども可能になってくるのではないかということからも、治療法の確立や承認薬の普及が期待されています。

現状、未承認薬の使用はあまりに高額な費用がかかることや、効果・安全性試験が未だ完了していないがゆえの未承認であると当院では捉えています。そのため、当院ではステロイドとインターフェロンによる治療や承認された抗ウイルス薬による治療を提案します。

猫のFIPはうつるか?_ウィルスの感染について

FIPの原因であるネココロナウィルスは、ねこちゃん特有のものであり、人やわんちゃん、その他の動物に感染することはありません。ネココロナウィルスはねこちゃんの腸内に生息しています。感染したねこちゃんはトイレでウィルスを排出するため、他のねこちゃんとトイレを共有していたりすると、高い確率で便を介して広がります。

多くのねこちゃんは生後早い段階でネココロナウイルスにさらされFIPを発症しないまま長期間保有しているといった見解もあります。

ただ、FIPの発症にはウィルスと免疫系の特定の相互作用が起こることが必要です。そのため、家庭内の1匹のねこちゃんがFIPを発症し亡くなったのに、他のねこちゃんは完全に健康そのものということは珍しくありません。

ご家族に寄り添うかかりつけ医としての一般診療

健康診断、予防接種、去勢避妊手術はもちろん、内科・ 消化器等の幅広い診療、終末期診療まで、たくさんのお悩みに寄り添いながら診察を行います。
愛犬・愛猫だけでなく、ご家族にも安心してお越しいただけるよう、基本的にはご家族の前で検査を行い、丁寧にお話を伺いながら診察を進めていきます。そのため、超音波検査も診察室の中に設置しております。
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