【犬のクッシング症候群 】 自己診断と当院の治療、家庭での過ごしかた

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岡田 純一 先生
KINS WITH 動物病院 院長

「最近水を飲む頻度が増えた」

「真夜中に起きて、トイレに行っているようだ」

「だんだん毛が薄くなってきた」

もしあなたのわんちゃんが高齢であり、同時に上のような症状を見せ始めたら、それは単に歳を重ねただけでなく「クッシング症候群」の症状であるかもしれません。

ねこちゃんよりわんちゃんの発症が多いこの病気、ただの加齢と見過ごさず家族の変化に気づけるよう常に注意していきましょう。

今回はクッシング症候群を見逃さないためのチェックポイントと、原因から家庭での過ごし方、。そして当院での治療方針をまとめて掲載いたします。

クッシング症候群の概要と原因

わんちゃんのクッシング症候群がどのようなものであるか、飼い主にとっては気になることです。ここでは概要と原因について解説します。

クッシング症候群の概要と症状

クッシング症候群は、副腎が特定のホルモンを過剰に産生する状態です。副腎は腎臓の近くにあり、生命の維持をはじめ様々な身体機能の調整を行う大切な物質を作り出しています。

その物質の一つである「コルチゾール」がなんらかの原因により過剰に分泌されることにより発症するのがクッシング症候群です。

コルチゾールはホルモンの中でも各組織に作用して「糖や脂質、たんぱく質など各種栄養素の代謝」「血糖上昇作用」などの働きを調整します。これらの働きにより、適切な体重、皮膚の状態、健康な体を維持・調整するのに役立っています。

一方で、コルチゾールが多くなりすぎると免疫系に影響を及ぼし、病気や感染症に対する抵抗力が弱くなり体調を崩しがちになるかもしれません。

クッシング症候群の原因

クッシング症候群には大きく分けて「腫瘍性」と「医原性」の2つのパターンがありますが、ほとんどのケースが前者の腫瘍性のものとなります。腫瘍性か医原性か、そして腫瘍性の場合はどこの腫瘍が原因であるか次第で治療法が異なりますので、まずは原因をしっかりと特定することが大切です。

◇腫瘍性_下垂体腫瘍

脳の下垂体と呼ばれる組織にできる腫瘍が原因となり、コルチゾールの生産が促進されている状態です。クッシング症候群を発症したわんちゃんのうち、およそ80%程度が下垂体の腫瘍を原因としています。

◇腫瘍性_副腎腫瘍

コルチゾールを産生する副腎に腫瘍ができるケースで、クッシング症候群を発症したわんちゃんのうちおよそ15%程度が当てはまります。腫瘍が良性の場合、外科的に切除することで完治する可能性が高いです。

◇医原性クッシング症候群

医原性とは「医療行為が原因となって起こる病気や障害」のことを指します。特にクッシング症候群においては、別の病気の治療として使用しているステロイドが原因となり併発することがあります。医原性クッシング症候群では、主にステロイドを点耳薬、注射、経口で投薬したケースで報告がありました。

この場合、ステロイドを中止すると症状が解消します。一方で、ステロイドは悪ではなく疾患の治療に必要なものとなります。自己判断で投薬を止めるのではなく、担当医と相談しながら治療デザインの再編を行うことが大切です。

東京都立川市にあるKINS WITH動物病院 立川院でも愛犬の健康に関するご相談を受け付けています。
丁寧な診察と愛犬や飼い主さまに寄り添った治療方法の提案をさせていただくので、お気軽にご相談ください。

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クッシング症候群に気づくまで _ 自己診断とサイン

クッシング症候群にはいくつか特徴的な症状があり、それが普段と異なる行動として現れることで飼い主のみなさまは異変に気づくとのこと。しかし、クッシング症候群はゆっくりと進行する疾患であり、初期の兆候は常に見られるわけではないことに注意が必要です。

飼い主が気づくきっかけとしては、以下のようなものが例として挙げられます。

・食欲が強まる

・水を飲む頻度が増える

・トイレに行く頻度が増える

・皮膚が薄くなる

・皮膚の炎症を繰り返す

・毛並みが悪くなる

・毛が抜けるようになる

・筋力が低下している

・苦しそうにあえぐことがある

・腹部が肥大する

また、免疫力が低下することにより他の病気にかかりやすくなることも、この病気の怖いところです。病気が進行すると脱毛と筋力の低下が激しくなり、わんちゃんの体は内外ともに衰弱していきます。

クッシング症候群は犬種を問わず発症するため、どの犬種でも注意が必要ではありますがプードル、ダックスフンド、ボストン テリア、ボクサー、ビーグルなどは特に発症のリスクが高いようです。

クッシング症候群の治療について

医原性の場合は治療方針の変更を行い、ステロイドの使用方法を決め直すことが必要です。

腫瘍性の場合はどの部位に腫瘍が現れたのか。そしてその腫瘍は良性なのか悪性なのかで処置が変わるケースがあります。

下垂体腫瘍の場合、腫瘍が大きくならないケースが多いため一般的にはよりリスクの少ない投薬による治療が選択されます。

副腎腫瘍の場合、腫瘍が良性でありかつ腫瘍全体を取り去ることができる状態であった場合、外科的な手術で完治(完全に病気が治り、元の状態に戻ること)を目指すことができます。一方で非常に大きな手術が必要となり、その費用や難易度、そして高齢のわんちゃんに多いことから多くの場合で投薬による治療が選択されます。

よって、基本的にはどちらのケースでも特別な理由がない限りは投薬による治療が行われ、「治す」のではなく「うまく付き合っていく」ことを飼い主さまは選択するケースが多いようです。

そのため、クッシング症候群は生涯付き合うことになる病気ではありますが、幸いなことに投薬によってかなりコントロールすることができる病気でもあります。適切な管理と定期的な健康チェックで抑えることができます。

よく使用されるお薬は「作られすぎているコルチゾールの産生を抑えるもの」です。このお薬を適切な量と頻度で使用することにより、クッシング症候群発症前の状態を目指します。

治療において大切になってくるのは「いかにわんちゃんの様子に気を配れるか」「発症前の状態に戻してあげることができるか」です。コルチゾールの産生を抑えるお薬ですから、投薬の量が多すぎると副作用としてクッシング症候群の症状と反対のこと(食欲不振、嘔吐、エネルギー不足、下痢)などが起こる恐れがあります。

*もちろん、使用するお薬の種類により副作用はさまざまです。

そこで、投薬による治療を開始したあとは治療に対する反応と薬剤に対する耐性に応じて、血液検査と獣医師による診断を受けることが必要です。治療開始から頻繁に細かな健康チェックを行うことにより、治療を細かく調整し調子を崩す前の状態にコントロールします。

当院では、診断がおりると直ぐにお薬をお出しします。まずは10~14日間の投与期間を経て再度ご来院いただき、血液検査や家での行動に関する問診を行います。

それから状況に応じて最初の2か月は2週間ごとの来院。それぞれ来院時の検査で問題なく数値が安定したら、以降は3か月に一度の来院に切り替えます。

クッシング症候群の家での過ごし方と予後(末期)について

腫瘍の種類や大きさにもよりますが、前述の通り適切な治療を行うことができれば発症前となんら変わらない状態で毎日を過ごすことが可能です。クッシング症候群は基本的に治らない病ではありますが、適切な管理さえ行われれば基本的にこの病気が命に関わる事態を起こすことは少ないです。

一方で適切な治療を受けることができなければ、代謝や免疫系のコントロールを失い糖尿病などの合併症を引き起こすことも。これを防ぐために、投薬を「適切な状態で」続けることが必要です。多すぎても、少なすぎてもいけません。

クッシング症候群の治療は「一生に渡って、わんちゃんの体調を管理し続けること」です。度重なる検査や毎日の投薬など、大変なことも多いと思います。

細かな数字の確認や薬の効き具合のモニタリングは私たち獣医師が行います。飼い主のみなさまにできることは大きく3つ。

・必ず病院で定期的な血液検査と健康診断を行うこと

・副作用の発生に常に気を配ること

・獣医師の指示に従い、投薬を管理すること

この3点だけきっちりと行うことができれば、投薬の不便はあるもののいつも通りの生活がおくれるようになり、基本的には命の心配も少なくなります。

食べる時に注意するもの

一点注意するとすれば、代謝が悪くなりますので食べ過ぎや太り過ぎに注意を払うことが必要です。また合わせて、糖尿病を併発した場合には専用のフードを摂るようにする必要があります。

気長な治療となりますが、どうかお付き合いいただけますと幸いでございます。

ご家族に寄り添うかかりつけ医としての一般診療

健康診断、予防接種、去勢避妊手術はもちろん、内科・ 消化器等の幅広い診療、終末期診療まで、たくさんのお悩みに寄り添いながら診察を行います。
愛犬・愛猫だけでなく、ご家族にも安心してお越しいただけるよう、基本的にはご家族の前で検査を行い、丁寧にお話を伺いながら診察を進めていきます。そのため、超音波検査も診察室の中に設置しております。
さらに、 血液検査機器を導入し、外部機関への依頼では数日かかる検査を、その場で見る事ができ、素早く診断、治療することへとつなげていきます。