重度の腹水貯留により呼吸器障害・睡眠障害・摂食障害を呈した蛋白漏出性腸症(PLE)の一例

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担当医師のご紹介
二子玉川院 消化器内科獣医師 杉本 太一

二次診療施設で消化器内科医として診療に従事してきました。
これからは身近に相談できる消化器内科医として、皆さんのお悩みを一緒に解決していきたいと思います。

 

1. 来院の経緯

以前から低アルブミンは指摘されていましたが、次第に腹水貯留が重度となり、失神を起こして救急病院を受診したのを機にセカンドオピニオンを目的に来院されました。

飼い主さまコメント 飼い主さまコメント

1歳の頃から月1回ほどの下痢はありましたが、すぐに良くなっていたので気にしていませんでした。しかし4歳になってから下痢が止まらなくなり、むくみと腹水が出るようになり、呼吸が苦しくなってしまいました。夜間救急で腹水抜去をしてもらいましたが、その後も腹水は改善せず、ついには突然倒れて意識を失ってしまいました。別の救急病院に行き、そこで初めて「蛋白漏出性腸症」が疑われると知りました。

 

2. 治療の概要

  • 品種 ポメラニアン
  • 年齢 4歳
  • 性別 避妊メス
  • 体重 4.6 kg(腹水消失後は2.9kg)
  • 症状 低ALB、削痩、食欲低下、腹囲膨満、呼吸促拍、努力呼吸、睡眠障害
  • 病名 蛋白漏出性腸症(リンパ管拡張症と慢性胃腸炎疑い)
  • 検査 身体検査、血液検査、超音波検査
  • 処置 ステロイド、抗血栓薬、手作り超低脂肪食、シンバイオティクス
  • 費用 約10万円(全通院でかかった診療費)

 

3. 来院時の状況

下痢や嘔吐はありませんが、元気・食欲は低下しており、腹囲膨満は重度で、横になれず座りながらウトウトするしか寝る手段がないとのことでした。呼吸は努力性で、十分睡眠がとれていないためか、目に活力がありませんでした。腹水で見かけ上の体重は維持していますが、実際は重度に削痩していました。長期の高用量ステロイドと低栄養のため、腹部皮膚はボロボロな状態でした。

飼い主さまコメント 飼い主さまコメント

かかりつけ病院では、ステロイド、免疫抑制剤、低アレルゲン食、低脂肪食を試してきました。最後の救急病院に受診した際に、免疫抑制剤を休薬してみたら?と助言をもらい、これまで長く続いていた下痢はすぐに止まりました。そこで専門の先生に診てもらわないといけないと確信をもちました。こちらにかかるまではその後も腹水は続き、腹水を穿刺して抜くしか手段がありませんでした。なによりも横になれずに寝れないのを見ているのが辛かったです。SNSで専門の先生がいると知り、ここにかけるしかないという気持ちでした。

 

4. 検査と治療方針

図1:腹水貯留の超音波画像

血液検査ではALBは1.3g/dlで、カルシウムも6.0 mg/dlと低く、過去数か月も同様の結果だったようです。エコー検査は今の状態で体位を横にしたら危険と判断し、立位で腹囲膨満が腹水貯留であること・胸水はないことを確認して精査は見送りました(図1)。来院1週間前にも他院で腹水抜去されており、高頻度での腹水抜去による電解質異常が危惧されたため腹水抜去はせず、試験的な治療をすることにしました。

おそらく体重は3kgもないと予想し、血栓形成の危険性が高い状態と判断し、ステロイドを減量(5mg→2.5mg)、血栓予防薬を追加、他にカルシウム剤も追加しました。食事は療法食から手作り超低脂肪食に変更しました。

 

5. 経過

図2・図3:治療前と治療後の腹部の比較

3日後には呼吸が楽になり、横になって久しぶりに眠れることができたようです。それを境に食欲と活動性も改善し、1週間後の再診では別の犬のような活力のある目をしていました。体重は1週間で4.6→4.0kgに下がり、約600mlの腹水が減ったと推察されます。その後、ステロイドは1.25mgを2日に1回まで減量しました。3週間後の再診時には2.9kgまで体重は減り、お腹の膨満感は改善しました(図2・3)。

アルブミンは2.3g/dl、カルシウムは8.7mg/dlといずれも基準範囲に良化しました。初診時の体重のおよそ半分近くが腹水だったことになり、これまでは相当量のステロイドが投薬されていたことになります。状態の改善がみられたので、これから腹部エコーと内視鏡検査で胃腸疾患の精査に移ります。

飼い主さまコメント 飼い主さまコメント

見違えるほど元気になり、愛犬も家族も生活の質が大きく改善しました。本当に命拾いしたと思っています。先生に診てもらえて本当に感謝しています。

 

6. 同じ悩みを持つ飼い主さまへ

蛋白漏出性腸症(PLE)は疾患群の総称であって、「慢性胃腸炎・リンパ管拡張症・リンパ腫」が含まれます。本来は正確な病態を評価して、的確な治療をすべきですが、今回の患者さんは精査のための検査で命を落としかねないほどに危険な状態でした。手探りで治療することは決して悪いことではありませんが、改善の兆しがない場合は、状態が悪くなる前に早めに専門の先生に相談してください。

 

7. 担当獣医師からの一言

今回の患者さんは血栓症を合併する前に来院していただけましたが、蛋白漏出性腸症は血栓が詰まる場所によって治療が難航し、助けてあげられないこともあります。また、急変することもある恐ろしい病気です。やみくもなステロイド治療は血栓症を誘発するなどの危険性があり、使用には細心の注意が必要です。ある程度病態を見据えた「手探り」の試験的治療と、「やみくもな」試験的治療は全く別物です。治療の道筋がみえない場合は、今後の方針を今一度担当医に質問してみてください。不明瞭な場合はセカンドオピニオンを活用するのも良いと思います。

KINS WITH 動物病院二子玉川院 杉本先生
消化器内科の治療を担当する先生
KINS WITH動物病院 二子玉川院
獣医師 杉本太一

東京都世田谷区 玉川3丁目15-13
EXPARK二子玉川 1階
電話番号:03-6447-9230

二次診療施設で消化器内科医として診療に従事してきました。これからは身近に相談できる消化器内科医として、皆さんのお悩みを一緒に解決していきたいと思います。

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