
食欲があるのに犬が下痢をするとき
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消化器内科では食べ物の消化に関わる全ての臓器、具体的には胃腸に食道、肝臓、胆嚢、そして膵臓の病気に対応します。二次診療施設で消化器科に専従した獣医師が在籍し、検査や治療の選択肢をご家族と相談しながら、それぞれの患者さまに最適な道を探したいと思います。
東京都世田谷区 玉川3丁目15-13 EXPARK二子玉川 1階
電話番号:03-6447-9230
海外で生まれ育った雑種猫のハナちゃん(仮名・5歳・避妊メス)。主訴は「数年以上前からの慢性嘔吐」。ここ1か月で吐く回数が増加し、心配になって受診されました。
隣の家で生まれた子猫を引き取ってから、昔からよく吐く子だなという認識はありました。でも猫はよく吐くと聞いていたし、現地の健康診断でも特に異常なしとの評価で、猫はこういうものだという説明だったので、特に気にすることもなく生活していました。2023年に日本に移住してから、日本の複数の病院でも同様の評価で、「毛球を吐いた後に胃腸が過敏になり、違和感を解消しようとして連続して吐くことがある。吐いた後も元気・食欲・排泄が正常であれば、病的とは言えない」とも言われました。フードを変え、胃腸薬を試し、それでも良くならない状態が続いていて、1か月前から吐く回数が増えて、さすがにおかしいと思って、消化器専門の病院をネットで探して早く受診したいという気持ちでした。
● 品種 雑種
● 年齢 5歳
● 性別 避妊メス
● 体重 2.85 kg
● 症状 慢性嘔吐
● 病名 胃リンパ腫(大細胞性、高グレード、B細胞性)
● 検査 身体検査、血液検査、超音波検査、内視鏡検査、病理検査
● 処置 ステロイド、制酸剤
● 費用 約23万円
元気・食欲・排便・体格はいずれも問題ありませんでした。体重減少もなく、嘔吐以外は問題点がありませんでした。ただ、嘔吐はもともと月4回程度でしたが、だんだん回数が増えて、1か月前からは毎日吐くようになったようです。
これまでに何件も病院を回り、検査をして納得のいく見解を求めてきました。受診した病院では高消化性の療法食や胃腸薬を試してきました。少し良くなったり、また戻ったりを繰り返し、数か月経過しました。毛玉を吐くこともあったので自分でも市販の毛玉対策製品を試したりもしましたが、効果はいまひとつ感じられませんでした。日本語が母国語でないからなのか、診察を嫌がられたこともあり、それは辛かったです。このままではいけないと思い、消化器専門病院をネットで探してたどり着きました。この子は一緒に日本に来た家族以上の存在で、この子のために必死な気持ちでいっぱいでした。


血液検査では特筆すべき異常所見はありません。しかし、エコー検査をすると胃リンパ節は腫大し(図1)、胃壁は一部で壁層構造が不明瞭で(図2)、粘膜面は不整な場所がありました。その他の腸管や内臓に画像的な異常所見はありませんでした。

胃リンパ腫が第1に疑われ、ご家族は確定診断のための内視鏡検査を希望されました。内視鏡検査ではエコー検査と同部位の胃体部大弯と小弯に地図状潰瘍がみられ出血していました(図3)。内視鏡生検の病理結果で「胃の大細胞性リンパ腫(高グレード)、慢性腸炎」と診断されました。
本疾患は命に関わる重篤な病気であり、抗がん剤をしても途中で効かなくなり、数か月で亡くなってしまうことが多い恐ろしい病気ですが、猫の胃リンパ腫は抗がん剤が継続して効いてくれれば年単位の生存や時には根治(抗がん剤をやめても再発しない)も目指せることもあるため、抗がん剤治療を推奨しました。基本的には潰瘍による痛みを軽減し、嘔吐を減らして生活の質を高めてあげることが抗がん剤治療の主な目的になります。ご家族は猫ちゃんに負担の少ない近隣での抗がん剤治療を希望されましたので、ご自宅から近く、リンパ腫と抗がん剤治療に精通した信頼できる先生にご紹介をし、抗がん剤治療を開始していただきます。
言葉の壁がある中で、難しい内容や大事なポイントは伝え間違えがないようにグーグル翻訳を使いながら時間をかけて説明してくれました。
病理結果が出る前から先生は胃リンパ腫の可能性が高いという見解でした。それを聞いた時は絶望的でしたが、抗がん剤をする前に処方された内服薬だけでもこれまでずっと続いていた嘔吐がピタッと止まり、信じられませんでした。病理結果の速報を先生から電話をもらった時はものすごく緊張しました。いざ診断名を聞いた時には頭がパニックになり、一度電話を切って落ち着く時間ももらいました。2ndオピニオンを聞きたいと提案しても先生は嫌な顔せず、信頼できる病院をすぐにご紹介してくださいました。
「猫ちゃんはよく吐く生き物だ」とよく聞くと思います。猫は自分で毛づくろいをして毛玉を吐く機会はたしかに犬より多いです。嘔吐には毛玉のような「非病的な嘔吐」と病気を考えなければいけない「病的な嘔吐」があります。吐く内容の中に食べ物が含まれるようなことがあれば、それは病的な嘔吐かもしれません。自宅での嘔吐内容を正確に伝えることは難しい時もあります。そんなときは嘔吐物を写真に残したり、吐いている様子を動画で撮影したものを診察時にみせると正確な情報共有が簡単に可能ですし、診断のための有益な情報になります。
今回の猫ちゃんは症状が嘔吐以外なく、全身状態は良好で、重篤な病気を想像しにくい症例でした。このような病気こそ、慢性嘔吐の鑑別疾患を丁寧に評価し除外検査することが大切です。時に病気ではないことを言い切ることは病気を証明するよりも難しいと個人的には思います。今回の猫ちゃんは胃リンパ腫を疑いの目でエコー検査をしないと気づくのが難しい症例でした。悪性腫瘍は必ずしも派手なサインを出さないこともあるため評価には細心の注意が必要です。
二次診療施設で消化器内科医として診療に従事してきました。
これからは身近に相談できる消化器内科医として、皆さんのお悩みを一緒に解決していきたいと思います。