10才の小型犬の重度歯周炎と破折|治療方法に悩んだ症例

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岡田 純一 先生
KINS WITH 動物病院 院長

今回は、重度の歯周病で歯がぬけてしまい、来院した症例をご紹介します。

当院では、できるだけ歯を残してあげたいと考えています。しかし、飼い主様との相談内容によってはすべての歯を抜く処置をすることもあります。今回は一部の歯に温存する治療をすることになりました。

1. 治療の概要

 ⚫︎大きさ 小型

 ⚫︎犬種  トイ・プードル

 ⚫︎年齢  10歳4ヶ月

 ⚫︎性別  去勢雄

 ⚫︎体重  4.8kg

 ⚫︎症状  歯がぬけた

 ⚫︎病名  重度の歯周炎、両側上顎第四前臼歯破折

 ⚫︎処置  上顎第四前臼歯の抜歯、下顎第一後臼歯の歯周治療と再生療法

 ⚫︎処置時間 初回治療 2時間、二回目 2時間

 ⚫︎費用  初回20万円、2回目25万円(目安)

2. 実際の症例

2-1. ご来院時の状況

歯周病で歯が抜けたため来院されました。他の病院でも相談されているそうです。

マスクをしていても強い口臭が感じられ、重度の歯周病が疑われます。腎臓病で治療を受けているそうで、なるべく麻酔はかけたくないが、歯も温存したいとのご希望でした。

2-2. 検査結果と治療方針

口の中を拝見すると両側の上顎の奥歯の高さが低くなっているのがわかりました。おそらく両方とも歯が割れているでしょう。歯石でおおわれてしまっているので、神経が露出しているか(露髄)は不明です。

骨の状態確認のため、頭部レントゲン等を行いました。頭部レントゲンは左右から1枚ずつすこし斜めから撮影します。真横からずらすことで左右の歯を重ならないようにすることができます。それでも歯が重なってしまう部分があるので両側から撮影して、総合的に判断します。

上顎の奥歯や犬歯の周囲の顎骨(白い部分)が黒っぽくなっており、骨が破壊されていると予想されます。下顎の奥の大きな歯(第一後臼歯)の歯根の間(根分岐部)もやや黒っぽくなっており、骨破壊がすすんだ状態(歯周炎)が疑われました。上顎第四前臼歯は、根の先の周囲が黒っぽくなっており、根尖病変が疑われます。この場合露髄していることが多いので、治療としては、抜髄根管治療か抜歯が適応になるでしょう。歯の温存を希望されていたので、まずは歯科レントゲンを使って全身麻酔での精査と歯石除去・歯周病の治療を行うことになりました。

2-3. 1回目の治療の流れ

口腔内の状態を写真に撮って記録した後は、歯科専用のレントゲンを撮影します。これにより歯と顎骨の状態を把握することができます。撮影したらプローブという器具を用いて、歯の周囲の状態を把握する検査を行います。

初回の治療では、歯をなるべく温存したいので、重度の歯周病でも歯石をキレイにとって状態が改善するか経過を診ることとしました。一部前歯(切歯)がほとんど骨が残っていなかったので、抜歯しました。

歯石をとってみるとやはり、上顎の第四前臼歯は破折して露髄していました。歯髄(歯の中の神経など)は両方とも黒っぽくなっていて、壊死している状態でした。今回は治療せず、飼い主様と相談して抜歯するか決めることとしました。

2-4. 2回目の治療方針

両側の上顎奥歯については、温存する場合は、抜髄根管治療が適応になります。両側の歯が折れている場合、処置に非常に時間がかかるので、片側ずつ分けて行うのが良いかと考えています。他の歯については、1回目の処置の3か月後にレントゲンを撮影し、歯石除去の結果どの程度骨が治ったかにより再生療法ができるか、抜歯すべきかを判断します。

飼い主様とよく相談した結果、麻酔回数を減らしたいとのことで、割れた歯は抜歯して、残りの歯を温存する方針になりました。痛そうなので早く抜歯したいと希望を頂いたため、1回目から1か月後の処置となりました。

2-5. 2回目の治療の流れ

前回同様、口腔内の状態を写真に撮って記録し、歯科専用レントゲンを撮影しました。

まだ完全に治っていない状態ですが、レントゲン上で骨が治ってきているのが感じられます。実際に専用の器具で触ってみても歯周ポケットが浅くなっており、改善が感じられました。今回レントゲン上では改善していたので残念ですが、折れた歯を抜歯し、他の歯は再度クリーニングと一部骨補填剤をいれて、骨の再生を促すことにしました。

矢印の先の部分が前回より白くなっています。

2-6. 術後結果

見た目では分かりにくいですが、左上の牙と両側の下の奥歯に補填剤を入れています。

これで骨が再生してくれれば、歯を温存してあげられます。

次の治療は3か月後に歯科レントゲンを撮影して治り方を評価して、決定します。

良く治っている場合は、歯磨きを継続して定期的に歯石除去など治療を行います。治りが悪かったり、悪化した場合は、他の治療法か抜歯が選択されます。

3. 担当獣医師からの一言

今回は重度の歯周炎になってしまった歯を温存するために治療したケースをご紹介しました。

まだ治療途中なので、次の検査結果がでたらこのページを亢進してご紹介したいと思います。

抜かないことが絶対的にいいわけではないと思いますが、なるべく残してあげたり、悪化する前に治療をしてあげられると良いですね。早期発見・治療のためなるべく早めに、こまめに歯科検診を受けていただけると嬉しいです。

担当医師のご紹介
二子玉川院 院長 岡田 純一

KINS WITH動物病院、院長の岡田純一です。当院では愛犬さん、愛猫さん、ご家族の抱えるトラブルに対し、症状をなくすことはもちろん、なるべく根本から解決することを目指しています。
高性能な機器を用いた安全で正確な処置はもちろん、常在菌に着目したアプローチや、お家での生活に対するアドバイスまで丁寧に対応致します。
もちろん手技の技術を向上させるための鍛錬も日々欠かさず行なっております。
愛犬さん、愛猫さんとご家族が元気いっぱいで幸せな時間をなるべく長く過ごすお手伝いができるよう、努めて参ります。よろしくお願い致します。