犬の歯周病の治療方法とは?軽度から重度の症状を解説

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犬の歯周病の概要

犬の歯周病とは、歯肉、骨、その他の歯の構造に悪影響を及ぼす口の中の細菌によって引き起こされる進行性の病気です。歯周病の中でも、主に初期段階を「歯肉炎」、症状が悪化すると「歯周炎」と一般的に呼ばれています。歯周病は歯茎の下の部分で起こるため、多くの場合は病気が進行するまで気づかないことが多いです。

歯肉炎

歯ぐきの炎症のことをいい、初期の歯周病のことです。主に口の中の細菌が歯肉に感染することによって引き起こされます。歯磨きを怠ることによって発症・悪化してしまいます。

歯周炎

歯肉炎が進行し、歯槽骨(歯の周囲の顎の骨)など歯を支えている組織まで炎症が波及した状態のことを指します。炎症により歯槽骨が破壊されてしまうため、歯を支えることができなくなり、歯がグラグラしたり(動揺)、抜けてしまうことも。一度破壊された歯槽骨の再生は難しいため、歯周炎まで進行しないよう毎日の歯磨きを行い、定期的に歯石除去などの口腔ケアを行うことが重要です。

犬の歯周病の原因

歯周病は、口腔内での歯周病菌の増殖を原因として引き起こされます。

歯周病は愛犬の歯の表面に付着した細菌が集まって歯垢と呼ばれる細菌の塊を形成することから始まります。歯周病は、この歯垢中の細菌バランスが変化し、歯周病を引き起こす悪い菌が増殖し炎症を引き起こした結果として発症します。

歯垢が付着して約3日ほどで、犬の唾液の中に含まれるミネラルにより、歯垢が歯石に変化します。歯石は非常に強い力で歯に付着するため、歯ブラシでは除去できません。歯石が付着すると歯の表面はザラザラとしたものとなり、さらに歯垢が付着しやすくなります。これらを繰り返し、歯周病菌が増殖した結果、歯茎に炎症が発生します。

犬は人と比較し、歯周病になりやすいことに注意が必要です。特に、小型犬や短頭種はよりその傾向が強く見られます。顎の大きさや歯並びなどの影響により、歯垢・歯石が蓄積しやすいためです。また、小型犬はそれぞれの歯を支える骨量が少ない部分があるため、歯周炎により歯が抜けてしまう可能性が高くなります。

犬の歯周病の一般的な症状(軽度〜重度まで)

犬の歯周病の症状は軽度なものから重度のものまで大きく異なります。一見、綺麗な歯だと思っていてもレントゲンと歯ぐき(歯肉)の検査を受けた後にはすでに深刻な状態であることもあります。

歯周病の愛犬の症状はステージが4段階(4が一番深刻)あり、冒頭でも触れた通り初期段階で歯肉炎となりステージが上がるにつれて歯周炎を引き起こします。

ステージ1(歯肉炎)

歯茎の炎症(赤み、腫れ)がみられるが、多くの場合は明らかな症状がありません。そのため、普段ご自宅で観察して気づくことは難しい場合があります。

症状

・歯ぐきが少し赤みがかっている。
・歯茎の端の透明感がなく、腫れている
・歯磨き中や咀嚼中にごく少量出血する

ステージ2(軽度歯周炎)

初期の歯周炎で歯をささえる支持構造が少し弱まる。歯肉溝と言われる歯と歯肉部分の溝が深くなり始め、歯垢が溜まっていく。(歯周ポケット)

症状

・歯茎が赤く、明らかに腫れている
・歯磨き中や咀嚼中に出血する
・口のにおいがきつくなる
・歯ぐきがやせていく(下がり始める)

ステージ3(中程度の歯周炎)

歯肉炎が進み、歯を支える周囲の構造に炎症が広がり、支持構造の25~50%が失われた状態とされている。レントゲン写真では骨量の減少が見られ大きな歯周ポケットが見られるようになる。歯周炎(または歯槽膿漏)を引き起こす状態。

症状

・歯茎が赤く、腫れたりする
・歯磨き中や咀嚼中に出血する
・口のにおいがさらにきつくなる
・歯ぐきがやせてくる
・前歯(切歯)など歯がぐらぐらしている(動揺)

ステージ4(重度の歯周炎_歯槽膿漏)

歯周炎が進行し、歯の支持構造が50%以上失われた状態。レントゲン写真や歯周ポケットの深さを測る歯周プロービングで診断する。

症状

・奥歯など大きな歯を含めた歯がぐらぐらしている
・歯が抜ける
・歯の周りから膿が出てくる
・歯磨きをすると簡単に出血する、痛がる
・常に血が出ている
・口臭が強くなり、耐え難いような臭いがする

ここまでを見てみると、初期段階では少しの腫れと小さな歯周ポケットができる程度のため、定期的に検診に行っていない愛犬の場合は症状が分かりづらいことがあります。歯肉炎が進行すると、歯ぐきがやせて歯を支えられなくなり抜けてしまうことがあります。そうすると食事に支障が出てきたり、出血した場所から細菌が感染し合併症を引き起こすことがあるとされています。

犬の歯周病の検査と診断方法

犬の歯周病は、初期段階では目に見える症状が少ないため、正確な診断が不可欠です。診断の第一歩としては、獣医師による口腔検査が行われます。この検査では、歯肉の状態、歯石の存在、および歯の動揺(ぐらつき)などを確認します。特に歯肉の赤みや腫れ、出血の有無が注視されます。

歯科レントゲンの利用

歯科レントゲンは、通常のレントゲンよりも画素数が多く、口腔の詳細まで確認できるレントゲンです。歯の構造や周辺構造の状態を確認できるため、歯周病の進行度を適切に状態を把握するのに非常に役立ちます。

歯科レントゲン検査を用いて詳しく調べることにより、目に見えない歯根部分の問題や、外見ではわからなかった進行した歯周炎も見つけることが可能になります。

歯周ポケットの確認

さらに、歯周ポケットの深さを測定します。これは、歯周炎により歯肉と歯の間に形成されたポケットの深さを測ることで、歯周病の進行を評価する方法です。ポケットが深いほど、病状が進んでいると考えられます。また今後の治療によりどの程度改善したかを評価するための指標にもなります。

犬の歯周病の検査と診断は、これらの手法を組み合わせることで、より詳細な情報を得ることが可能になります。適切な診断を受けることで、愛犬の歯周病を早期に発見し、効果的な治療を開始することができるのです

歯周病の犬の治療(軽度〜重度まで)

歯周病のステージごとの治療をご紹介します。歯石取り(クリーニング)を含めたメンテナンスが必要な場合は、全身麻酔下で治療されます。

ステージ1

愛犬の歯みがきを毎日継続する必要があります。もし正しい磨き方がわからない場合は、適切なケア用品の選び方を含めて丁寧な歯の磨き方を獣医師に指導してもらうことができます。また歯肉炎や歯石沈着の程度により、歯周病進行抑制・治療を目的に麻酔下での歯のクリーニングをご提案する場合もあります。

ステージ2(軽度歯周炎)

ステージ2の場合は、動物病院で歯のクリーニングをします。当院では歯肉縁下の見えにくい歯石を顕微鏡で確認しながら徹底的に除去し、治療を行います。抗生剤のジェルなどを塗布する場合もあります。

ステージ3(中程度の歯周炎)

歯石と歯垢の除去だけでなく、必要に応じて歯肉の切開・縫合処置を行います。それでも改善しきらない場合は、人工骨などを用いた治療をご提案します。

ステージ4(重度の歯周炎_歯槽膿漏)

重度に進行した歯周炎では、残念ながら抜歯になってしまうケースが多いです。一方で、一部の歯に関しては再生治療をはじめとした特殊な治療により維持できるケースも存在します。治療を行わずそのままにしていると大きな痛みと感染の原因となります。そのため、デンタルグッズで対応するのではなく動物病院で歯周病を治療することが不可欠です。

歯周病の愛犬の治療は、基本的には動物病院での歯のクリーニングや歯石を削ることによって改善していきますが、症状が悪化すると抜歯以外の治療がなくなってしまいます。治療費もステージによって異なりますが、歯周炎の場合は動物病院でかかる費用以外でも感染の広がりを抑えたり合併症を未然に防ぐためのおくすりを処方する場合があるため、治療費は高くなる傾向があります。

無麻酔での歯石除去

時折、お電話やLINEで無麻酔での歯石除去についてお問合せをいただくことがございます。当院では原則として無麻酔での歯石除去は行っておりません

無麻酔での歯石除去は多くの場合、愛犬に恐怖や不安、ストレスを与えることがあると考えています。結果として処置中に愛犬が動いてしまった場合、歯や歯肉、口腔内や鼻や目などを歯石を取るための機器が突いて大きな怪我をさせてしまう可能性があり、非常に危険です。

また、動いてしまう愛犬の処置では、ポケット深部や歯の裏側の歯石の徹底的なクリーニングが難しいと考えております。これは、歯周病の根本的な原因を取り除くことができず、治療効果を損なってしまう場合があります。

加えて、歯石取りの施術では多くの水を口腔内で使用します。この水分には歯石や歯周病菌が含まれますが、無麻酔での施術は処置時に生まれた水分を愛犬が誤って飲み込んでしまう恐れがあります。これがもし肺に入れば、誤嚥性肺炎になってしまうリスクも否定できません。

上記の理由から、私たちは基本的に全身麻酔を用いた歯石除去を行っています。もし持病や高齢などにより麻酔を用いた施術が難しい場合は、状況に応じて服薬やサプリメントやデンタルケア製品による負担の少ない治療を選択することができます。歯石を取り去ることはできませんが、炎症を抑えて痛みを軽減することで、愛犬の生活の質を上げることができると考えています。

歯周病を放置するとどうなる?

歯周病を治療せずに放置した場合は、愛犬に苦痛を与えるだけではなく全身に悪影響を与える可能性があります。

顎骨の骨折が起きる

歯周病が進行し、歯を支えている骨の大部分が破壊された場合、顎の骨を骨折する可能性があります。特に小型の愛犬は顎の骨に対して、歯が大きく、歯の根元があごの骨の端に非常に近いため、骨折のリスクが高いことがあります。

目の問題

愛犬の奥歯は目のすぐ下にあるため、歯周病によって起こる感染症は目の問題につながる可能性があります。

臓器への悪影響

愛犬の歯周病は、歯から離れた臓器にも悪影響を与えることがあると言われています。口の中の歯周病菌が血液に入ることにより全身に広がり、心臓病や腎臓病や肝臓病などのリスクが高まることが指摘されています。

歯周病の予防。愛犬のためにできること

毎日歯みがきをしよう

愛犬の歯周病を予防するためにおうちでできる最善の方法は、毎日歯を磨くことです。当院では毎日の歯磨きを推奨していますが、最低3日に1回以上は磨くことで効果があると考えています。子犬の場合は、生後6ヶ月頃に大人の歯が生えてきたら、ブラッシングの練習をする必要があります。歯が成長途中の時期に子犬の歯(乳歯)を磨くことは避けましょう。生え替わりの時期に無理に磨くと痛みなどにより口を触らせなくなる場合があります。成長期は歯に優しく触る練習をしておくと歯磨き練習がスムーズに始められます。

デンタルジェルを使う

愛犬の歯垢と歯肉炎を減らすのに役立つものにデンタルジェルがあります。悩まされることが多い歯周病などのお口のトラブルは、悪玉菌が増えすぎた結果引き起こされますが、実は善玉菌も存在しています。デンタルジェルによって、歯の汚れを取り除くだけではなく、乳酸菌などの菌を取り入れることによってお口の中の菌のバランスを整えることができます。

動物病院で定期的にクリーニングしよう

おうちで何らかの形で毎日のデンタルケアを受けることに加えて、歯周病の症状が現れる前に専門的なデンタルクリーニングを受け始める必要があります。愛犬の歯を残すために治療から予防までの最適な提案を獣医師にしてもらいましょう。KINS WITH動物病院では歯周病や歯石、口内炎などの口腔内トラブルへの治療・予防、歯周外科、歯周組織の再生療法といった、幅広い歯科治療を行っています。なるべく質の高い治療を行うために、都内でも導入件数が少ない手術用顕微鏡(マイクロスコープ)を導入しております。またマイクロスコープを用いて口の中の菌を検査することで、現状を正確に把握することが可能です。

歯周病になった犬のその後

犬の歯周病は、治療によって回復するまでの時間は変わります。また愛犬が全身麻酔下で治療を受けた場合、通常は1〜2日程度で体調が戻ります。もし抜歯や抜髄など長時間の処置を受けた場合でも数日で元気になりますが、抜歯した部分の傷が治るまでには、約1〜2週間かかります。

ステージ3およびステージ4の歯周病の愛犬には鎮痛剤、抗生剤を一定期間投与する場合があるため、飼い主さまのご協力が不可欠です。

愛犬の歯ぐきの腫れや炎症、歯が抜けたなどの歯周病の症状を示している場合は、できるだけ早めに動物病院を受診しましょう。

最先端の機器と熟練の歯科専門医による 「大切な歯を残すため」の痛みの少ないオーダーメイド歯科治療

歯周病や歯石、口内炎などの口腔内トラブルへの治療・ 予防、歯周外科、歯周組織の再生療法といった、幅広い歯科治療が可能です。
歯科レントゲンや都内でも導入件数が少ない高性能顕微鏡(マイクロスコープ)を導入し、 肉眼では見えにくい、小さな小さなトラブルも見逃しません。 マイクロスコープは人間の歯科クリニックでも導入されているクリニックは10%ほどと言われる最先端の 機器になります。
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お口のトラブルの際はお気軽にご連絡ください。