犬の膿皮症。繰り返す原因と症状、治療について(犬猫の皮膚科医監修)

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今回は愛犬に起こる膿皮症について、原因や治療法などについてお伝えします。

どの犬種でも発症の可能性がある【犬の膿皮症】

膿皮症は細菌性の皮膚感染症を指す言葉で、犬の皮膚の常在菌(ブドウ球菌など)が、皮膚に感染しておこる皮膚疾患です。

私たち人間もふくめて、生物の皮膚には多くの種類の常在菌が存在しており、健康な状態では常在菌によって皮膚疾患が起こることはありません。ですが、免疫力の低下やほかの皮膚病などの影響で、皮膚のバリア機能が失われることがあります。そうして、表皮のブドウ球菌が増え皮膚に侵入して炎症がおこることで起こるのが膿皮症です。

犬の膿皮症には、表皮内で起こる表在性膿皮症と、表皮表面で起こる表面性膿皮症、皮膚の深いところで起こる深在性膿皮症があります。

犬の膿皮症の症状

膿皮症の犬は皮膚が赤くなったり、かゆみが生じたりすることがあります。また円形のかさぶたや脱毛、ニキビのような病変が見られることもあります。犬が皮膚を引っ掻いたり噛んだりした場合、目に見える傷や膿ができている可能性があります。

人のニキビに似ているような膿疱がある場合は赤く盛り上がっており、中心は白い膿で満たされているように見えることがあります。

また、短毛種では蕁麻疹のように被毛が部分的にはみ出したり突き出ているように見えたり、斑状の脱毛により虫食いのように見えることがあります。

場合によっては、皮膚に湿った層ができたり、特に足の指の間や皮膚のひだにカビのような臭いがすることがあります。

犬の膿皮症の症状をまとめると以下のようになります。

  • 皮膚が環状に赤くなっている
  • ニキビのような発疹が出る
  • 環状にフケができる
  • 愛犬がかゆがっている(痒がらない子もいます)
  • 脱毛斑がある
  • 皮膚に湿った層ができる
  • カビのような匂いがする

ほかの皮膚病でも同じような所見が見られることがあるため、やはりまずは獣医師の診察を受けるべきです。
小さな丘疹(ポコっとニキビのような小さい膨らみ)がいくつかできたり、そのうちその丘疹が破裂したり、滲出液が出てきたりしてかゆみを生じた場合、愛犬が気にしてその箇所を舐めてしまうことで悪化します。犬の皮膚のかゆみが数週間以上続いている場合、皮膚が黒くなり、厚くなることがあります。

犬の膿皮症の原因

膿皮症を引き起こす原因菌は冒頭でも触れた通り、ブドウ球菌です。その中の「黄色ブドウ球菌」による感染が最も一般的であり、全体の90%程度を占めるとも言われています。

*その他の菌として、シュライフェリブドウ球菌大腸菌、シュードモナス、放線菌、ノカルジアなどによる感染によっても膿皮症は発症します。

前述の通り、通常これらの菌は愛犬の皮膚に普通に生息しているものです。なんらかの原因により表皮のバリアが弱くなったり、免疫力が落ちるような出来事があると感染症として膿皮症が発症します。

皮膚のバリア機能が損なわれる原因には、様々な皮膚トラブルへの罹患があります。

  • 環境要因(花粉など)、食品によるアレルギー
  • ノミ、ダニなどの外部寄生虫
  • アレルギー性の皮膚疾患
  • 脂漏症

また、免疫力が落ちる病気も膿皮症の原因となることがあります

  • 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
  • 甲状腺機能低下症

また、病気ではありませんが加齢も免疫力が落ちる原因として存在しています。

皮膚を傷つけるような行為、すなわち愛犬が痛みや不快感を理由に皮膚を引っ掻いたりすると、皮膚が傷つき細菌が侵入し膿皮症が発症することもあります。また、アトピー素因があると、皮膚バリアが弱いためアレルゲンが侵入しやすく炎症を起こしやすい体質により、皮膚炎を起こします。これによりさらに表皮の常在菌は増殖しやすく皮膚に侵入しやすくなるため、感染症を引き起こす原因となります。

通常このようなトラブルが起きると、免疫系が反応し細菌を殺してくれるものです。しかし、基礎疾患によって免疫システムが損なわれている場合、この反応が上手く起こらず感染が定着します。

犬の膿皮症の診断

膿皮症はその特性から、治療のための診断を複数行わなくてはなりません。「細菌による感染症(膿皮症)であること」を特定するだけでなく「細菌感染が起きてしまった根本原因は何か」を合わせて特定する必要があるためです。

病変部の皮膚湿疹にスライドガラスを押し当てたり、膿をとり、染色します。そうすることで感染の原因である細菌や真菌がいるかどうか、炎症があるかがわかります。

また同時に、病歴の確認や最近の愛犬の様子などのヒアリングを行います。例えば、膿皮症が起きる前に愛犬が仕切りにどこかを痒がるような仕草を見せていたら、膿皮症の根本原因として何かのアレルギーが起因している可能性があるためです。また、もし元気や食欲が無い様子が見られたらクッシング症候群をはじめとした内臓疾患により免疫が弱まっていることを疑います。
これらのヒアリングを踏まえて、追加でアレルギー検査や血液検査を行うことにより膿皮症の根本原因を特定することが適切な治療の第一歩となります。

犬の膿皮症の治療

膿皮症と診断された場合、膿皮症の治療法としては内服薬が一般的でしたが、近年の膿皮症治療ガイドラインでは、どこで膿皮症が起こっているかによって、外用療法、抗菌薬の内服の推奨度があきらかになりました。抗菌薬が効きづらい耐性菌の問題もでてきているため、使用する場合には細菌培養検査・抗菌薬感受性検査に基づき選択することが推奨されています。

基本的に適切な治療を行えば、1か月以内には終息する疾患ではありますが、基礎疾患が上手く治療されなければ難治性であったり再発を繰り返すこともあります。

愛犬を膿皮症から守ろう【セルフケア】

膿皮症の原因はブドウ球菌なので、異常に繁殖したりしないように、常在菌のバランスを整えておくことが大前提です。

加えて、皮膚の常在菌が正常なバランスで存在できるためには、皮膚を清潔に保つことが大切になります。

かといって、過剰なシャンプーなど必要な皮膚バリア成分まで失ってしまうような間違ったスキンケアをしてしまうと、結局皮膚の状態が悪化してしまい、ブドウ球菌が暴れ放題に…。その子にあったシャンプー剤、季節や皮膚の状態にあわせたシャンプー間隔など獣医師に相談しながら行っていきましょう。

またこまめなブラッシングで被毛の汚れやフケなどをケアして、通気性をコントロールしておいたり、汚れをふきとるシートや汚れが強い部分の局所洗いをとりいれたり。

長毛種においては、夏場など温度や湿度が高くなる時にはトリミングをして皮膚の通気性を保っておくことも大切です。

そして常在菌のバランスはサプリでもサポートができることなので、普段のスキンケアとあわせて取り入れることで、さらなる健康の質の向上と維持が期待できます。

KINS WITH 動物病院では、こうした皮膚のお手入れにも常在菌の存在を意識した診察を行っておりますので、これまで何度か膿皮症を繰り返している場合などのセカンドオピニオンも受け付けております。

お気軽にご相談くださいませ。

担当医師のご紹介
立川院 日本獣医皮膚科学会認定医 木村友紀

2023年10月にKINS WITH動物病院グループの一員になりました、渡邊動物病院の皮膚科認定医の木村です。
皮膚のお悩みは、原因が複合的なことが多く、特定が難しいと言われています。足先に皮膚炎の症状が出ていても、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性もあれば、足の関節が痛くて足を舐めて皮膚炎になっている可能性もあります。
私は皮膚科認定医でありながら、腫瘍認定医でもあります。日本獣医循環器学会や日本獣医歯科研究会に所属し、幅広い知見があります。皮膚に限らず、幅広い分野に精通しているからこそ、皮膚病の要因をあらゆる観点から分析し、根拠をもって適切な治療方針をご提案します。