犬猫の肝臓(かんぞう)の役割

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“沈黙の臓器”。肝臓が支える命のしくみ

肝臓といえば、人間では「お酒に強いか弱いか」に関わる臓器としてよく知られていますが、犬や猫にとっても、肝臓は生命維持に欠かせない非常に重要な臓器です。実際、肝臓は“体の化学工場”と呼ばれるほど多彩な働きを担っており、その役割の幅広さに驚かされます。


また「沈黙の臓器」とも称されるように、ダメージを受けても初期には症状が出にくく、気づいたときには病気が進行していることも少なくありません。

ここでは、犬猫の肝臓が果たしている多くの重要な機能と、気をつけるべき肝疾患、日々の健康管理のヒントについて詳しくご紹介します。

肝臓ってどんな臓器?

肝臓は、腹部の最上部、肋骨の内側に位置する大きな臓器です。赤褐色の重たい臓器で、全体の体重の約3〜4%を占めるとも言われています。
その役割は極めて多岐にわたり、主に以下のような働きを担っています。

  • 栄養素の代謝・貯蔵
  • 毒素や老廃物の分解・解毒
  • 脂肪の消化を助ける胆汁の生成
  • 血液成分のバランス維持
  • 免疫系への関与

つまり、肝臓は体内環境を整え、生命を維持するために24時間休みなく働き続けている、縁の下の力持ちなのです。

肝臓の主な役割はこの5つ!

① 栄養の代謝と貯蔵

食べたものから得られた栄養素(糖、脂肪、タンパク質など)を体が使いやすい形に変えたり、必要に応じて蓄えたりします。たとえば、余った糖はグリコーゲンとして肝臓に蓄えられ、血糖値が下がったときにエネルギーとして再利用されます。さらに、タンパク質を構成するアミノ酸の変換や、脂質の代謝なども担っています。

② 解毒・分解

体内に入った薬物、細菌由来の毒素、老廃物などを分解・無毒化するのも肝臓の重要な役割です。腸から吸収された物質はまず肝臓を通るため、まさに“体のフィルター”として機能しているのです。

③ 胆汁の生成

脂肪の消化・吸収を助ける胆汁は肝臓で作られ、胆嚢に一時的に蓄えられます。胆汁中の胆汁酸は脂質を乳化させ、小腸での効率的な消化吸収を可能にします。肝機能が低下するとこの胆汁の分泌にも影響が及びます。

④ 血液の調整

肝臓は血液中の成分(血糖、コレステロール、アルブミン、凝固因子など)のバランスを調整し、身体の恒常性を保っています。また、古くなった赤血球を破壊して処理する役割も担っています。

⑤ 免疫のサポート

意外と知られていませんが、肝臓には多くの免疫細胞が存在しており、体内に侵入した病原体の早期発見・排除に関与しています。肝臓は「解毒」だけでなく「防御」にも関わる臓器なのです。

犬猫と人の肝臓の違い

一見すると同じように思える肝臓の働きですが、実は動物種間で臓器の働きに違いが見られます。

① 代謝能力の違い

犬猫は特定の薬物の代謝能力が低いことがあります。猫はグルクロン酸抱合が苦手(=解毒に必要な酵素の一部が少ない)なため、解毒能力が人よりもずっと弱いことがわかっています。例えば、アセトアミノフェン(人の解熱鎮痛薬)や一部の精油(アロマ)は、猫ではごく少量でも中毒を起こすことがあります。犬も特定の抗炎症薬(NSAIDs_市販の人間用痛み止め)で副作用を起こしやすいことが知られています。

人と同じ感覚で薬やサプリを与えると、中毒や肝障害のリスクがあるため注意が必要です。場合によってはアロマなど意図しない生活環境が動物に悪影響を起こすこともあリます。

② 解剖学的な違い

人では主に大きく2葉に分かれている肝臓ですが、犬の肝臓は6葉、猫は5葉に複数の葉に分かれています。そのため、1つの葉に孤立して肝臓腫瘍が発生しても1葉だけ切除することが比較的ハードルが低く実施可能です。

その他、種によって肝臓と胆嚢の形状・位置も少しずつ異なります。

犬猫の肝臓に悪い食べもの・成分

ここまで犬猫の肝臓の役割やヒトとの違いについて述べてきました。

ヒトの肝臓と役割が異なるからこそ、私たちにとっては当たり前のように生活の中に存在しているものでも、犬猫にとっては代謝できず猛毒となりうるものがたくさんあります。

その一例をこちらで掲載します。

1.ヒト用医薬品・サプリメント

前述の通り犬猫が分解できない成分が含まれている可能性があり、基本的にいかなるものも犬猫に与えることはできません。使用する際には必ず犬猫専用のものを使用するか、獣医師の指示のもと綿密な分量管理を行うことが必要です。

容易に誤飲できる大きさでありながら、少量でも重篤な障害を引き起こす危険性があるため十分な注意が必要です。

2.日用品

香水、芳香剤、洗剤など生活にいい香りをもたらすものの中には「精油」と呼ばれる植物のオイルが使用されている場合があります。元となる植物の種類次第では犬猫にとって非常に有毒な場合があり、基本的に避けることが大切です。

また、精油は直接の誤飲だけでなく、揮発することにより皮膚や呼吸器から意図せず吸収してしまうことがあるため、使用そのものを控えることが望ましいと考えられます。

3.食料品

人間が日常的に食べているものの中には犬猫にとって毒性を示すものもあります。命に関わることもありますので、もし誤飲してしまった場合は速やかに動物病院に相談してください。

例:ネギ類(玉ねぎ、ニンニク、ニラ)、ブドウ、レーズン、チョコレート、キシリトール(ガム、歯磨き粉)など

4.植物

最近では室内で観葉植物を育てている方が増えてきました。しかし、観葉植物の多くは動物が摂取すると肝毒性があります。消化器症状(嘔吐、下痢、よだれなど)が出ることもあれば、出血しやすくなることもあります。

室内で観葉植物を育てる場合は、動物が誤食しない空間で楽しみましょう。

犬や猫でよく見られる肝臓の病気

犬や猫の肝臓疾患には様々なものがありますが、初期には無症状なことが多いため、気づかれにくいという問題があります。以下は代表的な肝疾患です。

◆ 肝炎

ウイルス感染、毒物、薬物、自己免疫異常などによって肝臓が炎症を起こす状態です。慢性化すると肝線維化や肝硬変に進行し、肝機能不全を引き起こす危険があり、注意が必要です。

◆ 脂肪肝(肝リピドーシス)

特に肥満傾向の猫では発症リスクが高いため注意が必要です。体調不良によるエネルギーの摂取不足、糖尿病によるエネルギーの代謝異常などがきっかけで発症します。「ちょっと食欲がないだけ」と思っていたら、急激に体調が悪化し、命に関わる状態に陥ることも少なくありません。

猫はもともと肉食動物で、特定の栄養素(アミノ酸や脂肪酸)に強く依存しています。そのため、絶食などのエネルギー不足状態に陥ると、体が脂肪をエネルギー源として動員し始めますが、猫の肝臓は、その脂肪を処理・代謝する能力が低いのです。その結果、処理しきれない脂肪が肝細胞に蓄積し、肝機能不全を引き起こします。

◆ 肝臓のしこり

老齢動物で見つかることが多く、良性病変(結節性過形成)のほか、腫瘍(肝細胞腺腫、肝細胞癌など)もあります。いずれも症状が出にくく、健康診断で偶発的に見つかることが多いです。腫瘍は成長して大きくなっていくため、気づいた時には巨大化した“しこり”となり、重要な血管を巻き込んで手術できない状態になったり、しこりから出血し命に関わる状態になることもあります。超音波検査や血液検査による早期発見が重要です。

◆ 先天性肝疾患

生まれつき肝臓の構造や機能に異常がある状態を言います。多くは症状がなく、健康診断の血液検査で異常が指摘されるケースが多いです。若い時から肝酵素上昇がみられる症例もいれば、中高齢になってから異常値になる症例もいます。また、一部の症例では成長期に入る頃(生後数ヶ月〜1歳前後)に、発育の遅れや発作などの神経症状で気づかれることもあります。

どんな症状に注意すべき?

肝臓病は“沈黙の臓器”らしく、進行するまで目立った症状が出ないことが多いです。しかし、以下のような症状が見られる場合は、肝臓のトラブルが疑われることがあります。

  • 食欲不振・体重減少
  • 嘔吐・下痢・元気消失
  • 黄疸(目や皮膚が黄色くなる、尿色が濃い黄色になる)
  • お腹の膨らみ(腹水、肝臓腫大、肝臓腫瘤)
  • 毛艶が悪くなる

特異的な症状に乏しい臓器のため、いつもと違う様子が続く場合は一度獣医師と相談し、検査することが勧められます。

肝臓を守るためにご家族ができること

  • 定期的な健康診断(血液検査や腹部超音波)

年に1〜2回は血液検査・腹部超音波検査・レントゲン検査などを受け、肝臓の状態をチェックしましょう。特に高齢の犬猫では早期発見が何よりも重要です。

  • バランスのとれた食事管理(過剰な脂肪やサプリに注意)

栄養バランスの取れた総合栄養食を基本に、脂肪分や添加物の多いおやつ・サプリメントの使用は控えましょう。また、肥満にならないよう体重管理も大切です。

  • 薬やサプリメントの使用は獣医師と相談

自己判断で与える薬や健康食品は、肝臓に予期せぬ負担をかける場合があります。使用する際は、必ず獣医師と相談を。

  • 急激なダイエットや絶食は避ける(特に猫)

猫は短期間の絶食でも脂肪肝に陥りやすいため、ストレスや病気で食欲が落ちたときは早めに対処が必要です。

まとめ:肝臓は「沈黙の臓器」だからこそ、日々のケアが大切

犬や猫の健康を支える肝臓は、普段は目立たないながらも、非常に重要な働きを担っている“スーパー臓器”です。だからこそ、症状が出にくいという性質を理解した上で、定期的なチェックや生活習慣の見直しが重要です。

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