2才の中型犬の上顎第四前臼歯抜髄根管治療|奥歯が折れて神経が露出してしまった症例

2才の中型犬の上顎第四前臼歯抜髄根管治療|奥歯が折れて神経が露出してしまった症例のサムネイル画像

上の奥歯が折れてしまい、抜髄根管治療をした症例をご紹介します。

歯が折れてしまった場合は、一般的には抜歯により対応されます。KINS WITH動物病院では、できるだけ歯を残してあげることで、ご飯やおやつを噛める生活を送らせてあげたい飼主様の希望に添えるよう、歯を温存する治療も提案しております。

1. 治療の概要

 ⚫︎大きさ 中型

 ⚫︎犬種  ロマーニョ・ウォーター・ドッグ

 ⚫︎年齢  2歳

 ⚫︎性別  去勢雄

 ⚫︎体重  12kg

 ⚫︎症状  歯磨きを嫌がるようになった。確認したら左上の奥歯が折れていた。

 ⚫︎病名  左上顎第四前臼歯破折(露髄を伴う)

 ⚫︎処置  抜髄根管治療、歯冠整復、歯石除去

 ⚫︎処置時間 4時間

 ⚫︎費用  30万円程度

費用に関しては、ご加入されている保険が適用できる場合もあります。

保険適用されるかどうかは加入されている保険会社にお問い合わせください。

2. 実際の症例

こちらでは、実際の症状や治療の流れについて詳しく説明していきます。

2-1. ご来院時の状況

歯磨きを嫌がるようになったことが、気になったワンちゃんのケースです。ご自宅で口の中を確認したところ、左上の奥歯(第四前臼歯)が折れて、ピンクの神経が見えていたため、オンラインでの相談にご予約いただきました。

オンラインでは、一般的な治療方法や病気についてご説明させていただきました。オンライン診療では、実際に見ることはできないので、診断をすることはできません。手術を希望されたため、事前診察として、ご来院いただきました。

2-2. 検査結果と治療方針

実際にご来院いただくと非常に元気なワンちゃんで、口の中をゆっくり見せてもらうことはできませんでした。飼い主様のご協力のおかげで折れた部分は確認でき、神経が出ていることが確認できました。(露髄)この場合は、抜歯や抜髄根管治療が適応になります。

また破折線(割れ目)が歯肉の上でとまっていることが確認できました。この場合は縁上破折といい、比較的容易に温存することが可能です。

2-3. 抜髄根管治療の流れ

抜髄根管治療はなるべく感染のないきれいな状態で実施する必要があるため、まず徹底的に歯石を除去します。とくに処置予定の歯はきれいにしたいので、特殊な洗浄液で歯の表面をきれいにします。

その後、根管(歯根内の歯髄がある空間)の入り口をさがすために、2か所穴をあけていきます。その際に歯冠(歯の見えている部分)の歯髄がある空間(歯髄腔)の中もきれいにします。

見つけた根管孔を少しずつ広げて、根管を拡大し、中をきれいにします。専用のチタン合金のドリルで中を切削しながら、消毒液と超音波洗浄器で洗浄何回も洗浄します。

洗浄が終わったら、根管の中にシーラー(アルカリ性の薬)とガッタパーチャ(専用のゴム)を入れます。どんなに洗浄しても歯根の中の細菌をゼロにすることはできません。シーラーは、その細菌を封入することで、歯の中で活動しないようにすることができます。

続いて、歯冠の中をコンポジットレジン(光で固まるプラスチック)を詰めて、歯の形を作り直します。元の形に戻したいところですが、折れやすくなってしまうので、やや低い高さで形を整えます。整えたプラスチックをツルツルに研磨して治療は終了です。

 2-4. 術後結果

抜髄根管治療前と治療後の状態を写真と共にご紹介します。

3. 担当獣医師からの一言

今回、ロマーニョ・ウォーター・ドッグというワンちゃんに初めてお会いしました。もともとは水鳥の狩猟で活躍したワンちゃんでしたが、優れた嗅覚を持つことからトリュフの採取犬としても有名で、英語ではトリュフ・ドッグ(Truffle Dog)とも呼ばれるそうです。

奥歯は蹄などのおもちゃや硬いおやつで折れてしまうことが良くあります。当院での破折症例は、ほとんどが奥歯の破折であり、蹄・鹿の角・馬などのアキレス腱・プラスチックのおもちゃ・ヒマラヤンチーズが原因でした。ハサミで切れないものや人の手で曲げることができない程度の硬さのものは、歯が折れてしまうリスクがあります。なるべく与えないようにお願いします。

 当院ではトイプードルやコーギー、柴犬のケースが多くあります。トイプードルは飼っている方が多い影響があると考えています。コーギーや柴犬さんはパワフルな子が多いので、おなじようにパワフルな性格のワンちゃんや犬種の飼主様はとくに注意してください。

奥歯が折れてしまうと噛む能力が落ちてしまうでしょうし、放っておくと目の下あたりが腫れたりします。短頭種や持病がある場合など、麻酔リスクの高い際には抜歯をすることもありますが、なるべく早めに治療して、温存してあげられると良いですね。

犬のことカテゴリの人気記事