食欲があるのに犬が下痢をするとき
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緩和ケアは癌治療と異なり、どのようなことをするのか、イメージが沸かない方もいらっしゃるでしょう。
当記事では、「緩和ケアとは?」「緩和ケアと癌治療の違い」を解説しています。実際にあった緩和ケアの体験記も掲載しているので、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
WHOが2002年に定義した緩和ケアとは、下記の通りです。
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
参照:「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳
緩和ケアは、癌の完治を目指すのではなく、癌と上手く付き合うために、癌によって起こる様々な症状をフォローすることです。たとえば、ご飯が食べれない場合は、お肉を焼いてあげたり、味をつけたりして、ご飯を食べれる状態にならないかを飼い主様と模索します。
緩和ケアと聞くと、癌の治療を諦めた人の治療だと感じてしまう方もいるかもしれませんが、それは違います。諦めるのではなく、上手く付き合っていく。些細な違いかもしれませんが、非常に重要な違いです。癌によって起こる症状をフォローする治療なので、癌治療と併用して、緩和ケアをおこなうことも多々あります。
では、実際に緩和ケアはどのようなことをおこなうのか、一例をご紹介します。
癌になると、寝ている時間が長くなり、体が固くなります。またそれも伴い体の痛みが増幅してしまいます。体のこわばりをとるマッサージを行うことで筋肉・関節の痛みを軽減してあげることができます。
また、痛みで動けなくなると、体が冷えて硬くなるので、適度な保温もおこないます。ほかにも、食べたり飲んだりすることにも支障が出るのでその介護や、床ずれの介護の指導もおこないます。
このようなことを飼い主様やご家族ですべてをカバーするのは大変です。少しでも愛犬が生きやすくなるように、私たち病院スタッフもフォローします。
ここでは、癌治療と緩和治療の違いについて、さまざまな項目で比較します。
腫瘍を0にする(外科的に切除する)、腫瘍の量を減らす
外科:約4回(初診、手術、診察、抜糸)
化学療法:週1回。薬剤によっては、3週に1回の場合もあり
放射線療法:週3回
外科:2ヶ月
化学療法:2ヶ月〜1年
放射線療法:1ヶ月
癌によって起こる様々な症状をフォローすることで、愛犬の生活の質を向上させる
1~2週間に1度
お別れの時まで
過去、私も愛犬に対して、緩和ケアをおこないました。この記事を読んでくださっている一助になればと思い、緩和ケアの体験記を執筆しました。
犬種:バーニーズマウンテンドッグ
名前:瑠璃
年齢:15歳
性別:避妊雌
瑠璃が11歳になった5月、ある日突然、夜中1時ごろになると何か聞こえるのか雷が鳴った時のような怯え方をするようになりました。もともと雷や花火を怖がる子ではありましたが、怯え方が異常でよだれを垂らし、呼吸は荒くなり椅子やテーブルを倒したり、網戸を突き破って外に飛び出すこともしばしばありました。体重が40kgもあったため、暴れだしたら家の中が破壊されるようでした。
また、それ以上に様子が尋常ではなく、このまま興奮した後に心臓が止まってしまうのではないかと思うぐらいでした。それが最初は1時間程度でしたが、朝方5時頃まで続く日が増えていきました。
血液検査やレントゲン検査等しましたが、異常はなく、歳のせい?認知症?脳の疾患?ぐらいしか思い当たるものがありませんでした。1か月以上続くのとやや悪化していったため、頭部のMRIをとりました。大きな異常はなく、軽度の脳の萎縮があるのみでした。以上の結果から、人でいうピック型認知症に近いと診断し、内服薬での症状緩和を開始しました。
お薬は使い始めましたが、それが効果を示すまで暴れるせいか、以前より痛めていた腰を悪化させ、後ろ脚が立ちにくくなってしまいました。半年後には後ろ脚は全く反応なくなり、前脚も動かせなくなり寝たきりになってしまいました。今思えば、変性性脊髄症のような神経麻痺を起こす病気だったのかもしれません。
瑠璃が12歳のときには、排便も排尿も自力ではできなくなりました。うんちやおしっこでお腹が張ってくると掠れた声で鳴き続けました。お腹を押して圧迫排尿を1日に3~4回してあげ、食後に肛門を刺激してあげるとうんちがでやすいので、排せつの介助をしてあげました。
ごはんもドライフードが食べにくくなってきたのでふやかすようになり、さらにこれも食べれなくなり、ゴムのスプーンで口の中に上手くいれてあげないと食べれなくなっていきました。
病気・体の老化にあわせて、食べるもの、食べさせ方、寝かせ方、水分の飲ませ方、考えさせられる日々です。でも時折、寂しいのか、動けないことがつらいのか、ずっと鳴き続けます。撫でてあげたり、寝る場所を変えたり、庭で気分転換させたり、どうしたら泣き止むのか、満足してくれるのか、ちょっと私自身がノイローゼぎみになりました。
実は丁度この頃に、私自身に子供が生まれ、育児と犬の介護と、そして仕事も復帰し始め、3つのことに追われる日々でした。正直、毎日が疲れてこの状況から逃げたくなることもありました。
瑠璃が13歳ぐらいのときに、瑠璃のおへそあたりに固いしこりがあるのに気づきました。それはゆっくりと大きくなっていき、飼い主としては「癌」が頭によぎりました。「癌=死」という言葉が頭から離れません。不安な日々が嫌だったのではっきりさせようと思い、検査することにしました。
針を刺しての細胞診検査をすると、悪性を思わせる細胞がとれました。いわゆる肉腫という癌です。どうしようかと悩みました。バーニーズの平均年齢が7歳とするとかなり高齢であること、寝たきりであること、脳の機能や体の機能の低下、そして麻酔後に目が覚めなかったらという恐怖、そして今の自分の気力体力。
そんなことを考えている間に2~3か月で腫瘍は握りこぶしほどの大きさになり、今度は口の中に腫瘍ができて出血するようになりました。「また口にも癌?」、はっきりさせたくて、麻酔はかけずになんとか細胞をとって検査しました。
こちらも癌でしたが、違う種類のものでした。「2つの癌の併発」、残念ながら口の癌はかなり大きな手術をして根治ができるかどうかのものでしたので、悩んだ結果、緩和治療=癌を受け止めつきあう治療を選択しました。
瑠璃は自分が病魔に侵されていても、相変わらず夜中は夜泣き状態。さすがに自力では歩けないので、家が破壊されることはなくなりましたが、夜泣きは連日続きます。さすがにこちらの体力がもたないので、少し落ち着く薬を飲ませ、あとは要求を満たして、鳴く頻度を下げるようにしました。
癌が二つになって14歳近くなると、日々弱っていくようでした。食べることも疲れてしまうようになり、食事回数を増やし、少量でカロリーが取れるものを選んだり、飲み込みやすい形状に1口ずつ柔らかい団子状にしました。そして水を全く飲まなくなったため、ミルクやリンゴの匂いをつけて刺激して飲ませるようにしました。
この頃になると、お腹の癌はドッチボールぐらいの大きさになり、口の癌は幸い5cm程度でしたが出血が頻繁になるようになりました。それでも血液検査では異常はほぼなく、心臓もしっかりしていました。
そして徐々に食べる量も減り、夜中の夜泣きのレベルが軽くなっていきました。本人は寝返りも自分ではできなくなり、お腹の癌が大きいため床ずれの管理が大変でした。エアベットに寝かせ、日に何度か体位変換をしていても、皮膚が赤くなり床ずれの前兆になってしまいます。また重いため一人で体位変換も難しいため、いろいろ工夫しました。介護は教科書通りにはいきません。その子に合わせた方法を見出す必要があると考えさせられました。
病気になったり、歳をとると、「○○できない」と制限しがちですが、1日1日を大事に、残される私が後悔しないようにと、瑠璃との一緒の思い出を作るようにしました。桜がさけば一緒にお花見、初夏はドライブで海や公園に連れていき、ごはんを食べたり写真を撮ったり。ハロウィン、クリスマス、お正月は衣装をつけて一緒にイベントを楽しみます。歩けなくても、一緒にお泊り旅行もしました。何年たっても瑠璃を忘れないように、瑠璃との癌の緩和ケアの経験、介護の経験がまた患者さま達の中で生きて、その思い出の中で瑠璃が生きていければと…
15歳間近になると病魔によりだいぶ体力は減っていきました。食欲も低下してきたので、食べるものをあげるようにしました。痛みをとったり、食欲が出るような薬も使いましたが、最初は少し効いても、1週間後には効かなくなりました。
食べることも苦痛なようで、なかなか量は食べれません。病気年齢を考えた上での食事量設定をし、本人に無理がいかないようにしました。痩せていく方向になりましたが、瑠璃はその方が楽そうで、静かに寝ている時間が増えていきました。私はただそばに寄り添い撫でてあげました。
2011年12月12日、瑠璃は静かに旅立ちました。約3年半の介護生活でした。最初はとにかく大変でした。なかなかマニュアル通りにはいかないし、とにかく夜寝れないのが辛かった日々でした。いつ解放されるのかと思ったこともありました。でもいなくなってしまうと、あまりにも毎日自分の時間がありすぎて、瑠璃の存在の大きさを感じました。
10年以上たった今でも思い出すと寂しいし悲しいです。しかし、飼い主として瑠璃の老後・病気を受け止め、見送ってあげれたのではないかと思っています。悩んでいる飼い主様、そしてペット達の声に耳を傾け、私の飼い主としての経験と獣医としての知識が皆様のお役に立てばと思っています。
再三になりますが、緩和ケアは治すことを諦めた治療ではなく、癌と上手く付き合っていく治療です。
また、担当してくれる獣医師も重要です。私自身、腫瘍科認定医の資格を取る過程で、「病気ではなく、患者を見よ」ということを強く教えられました。
たとえば、飼い主様から「ご飯が食べられなくなった」と相談があったときに、「食べられない理由がわからないから、肝臓を検査してみましょう」「食べられないのであれば、点滴を打ちましょう」と提案するのは、病気を見ていると言えます。
そうではなく、「じゃあ、お肉を焼いて食べられるかどうか見てみましょう」「醤油で味付けしたら食べられるかな?」と提案するのは、患者であるその子を見ていると言えます。
検査は大事です。しかし、機械的にそのような提案をするのではなく、その子を見て提案することを、私は心がけています。
私自身、飼い主の立場としても、獣医師の立場としても、緩和ケアを経験してきました。患者様と飼い主様に寄り添ったご提案をいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
渡邊動物病院の木村です。
癌(がん)・腫瘍の治療は、愛犬・愛猫にとっても、飼い主様にとっても負担が大きいです。だからこそ、その子に寄り添い、外科手術・化学療法・放射線療法の中から、治療を行います。
また、当院では緩和ケアも積極的に取り入れています。鎮痛剤だけではなく、闘病中の愛犬・愛猫の負担を少しでも減らすために、ご家庭でもできるお手入れの仕方や食べ飲み時の介護などもお伝えいたします。