【犬の外耳炎】症状と原因、治療について

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愛犬のお耳、定期的に確認していますか?

愛犬の耳は構造上、トラブルが起きやすい場所の一つです。耳の病気のなかでもよくみられる症例として、「外耳炎(がいじえん)」が挙げられます。軽度であれば、数週間程度でよくなりますが、重症化するとまっすぐ歩けなくなったり耳が聞こえづらくなったりと、重い症状につながることも。外耳炎の慢性化や重症化を防ぐためには、早期の治療や予防が大切です。

今回は、愛犬の外耳炎について、症状や原因、治療法などを解説します。耳のトラブルを予防するためのケアについても紹介しているので、ぜひ参考にしてくださいね。

犬の外耳炎とは

外耳炎とは、耳の入口から鼓膜までの「外耳」に炎症が起きている状態のことです。

愛犬の外耳道はL字型で、長くて狭い構造です。通気性が悪く老廃物などが溜まりやすい環境であるため、外耳炎になりやすいとされています。

どの犬種でも外耳炎のリスクがありますが、特にたれ耳の犬種や耳の毛が多い犬種は要注意です。耳のトラブルが起きやすい犬種の例として、コッカースパニエルやプードルなどが挙げられます。

外耳炎の症状

愛犬が外耳炎になると、どのような症状がみられるのでしょうか。また、治療をせずに放置するとどうなるのでしょう。おもな症状や重症化した場合の影響について解説します。

主な症状

  • 頻繁に耳や首周囲をかく
  • 耳が臭う
  • 頭を振る
  • 耳が赤い、腫れている
  • 耳から何かしらの液体が出ている
  • 外耳炎になると、耳の痛みや不快感から、上記のような行動の変化や症状がみられることがあります。愛犬に症状がある場合は、早めに動物病院を受診しましょう。

放置するとどうなる?

外耳道が何度も炎症を繰り返すと、耳道壁がぶ厚くなることで、耳の穴が狭くなり、慢性的に外耳炎が起きやすい状態になります。

こうなると、外耳炎が起きやすくなる悪循環に陥り、常に耳のトラブルを抱える状態になってしまいます。

慢性外耳炎がさらに進行すると、鼓膜の障害やさらに内側の中耳、平衡感覚や聴神経系を司る内耳までトラブルが発展することもあります。

最悪の場合、外耳道を切除する手術が必要になることもあります。

愛犬の顔が傾いたままになったり、まっすぐ歩けなくなったり、耳が聞こえづらくなった気がする場合は、耳の状態が重症化している可能性があるので、注意が必要です。

外耳炎は治療を受けないと悪化してしまう病気です。

少しでも愛犬の耳に異変がみられたら、症状が重くなったり、治療が困難になる前に、なるべく早めに診察を受けましょう。

外耳炎の原因

犬の外耳炎が起こる原因はとても複雑で様々な要因が絡み合って生じます。

外耳炎を引き起こす直接的な原因(主因)、外耳炎が起こることで成立してしまう要因(副因)、外耳炎を悪化させる要因(増悪因)、外耳炎の発症リスクを高める要因(素因)の4つに分けられます。外耳炎を治療する際には、愛犬それぞれの主因、副因、増悪因、素因を見極めることが大切です。

特に主因や素因は、外耳炎が完全に治るのか、長期ケアを続ける必要があるのかを決定するために重要な因子になります。今回は、わかりやすく説明するために、下記の三つについて解説します。

外耳炎を起こしやすい体質や構造(素因)

  • 垂れ耳
  • 耳道が狭い(パグ、フレブル、シーズーなどの短頭種)
  • 耳毛が多い(トイプードルなど)
  • 高温多湿の環境
  • 耳の中のできもの
  • 免疫が未熟、低下した状態(子犬、高齢)

垂れ耳の犬や耳道が狭い、耳毛が多いなどの耳の形態的問題と耳道内の通気性が悪く、蒸れやすいなどの環境的問題は完全に取り除くことは難しく、生涯お付き合いしていく必要があります。

基本的には、素因単体だけでは外耳炎になることは少なく、次に挙げる直接的な原因があることで初めて外耳炎を発症します。

 外耳炎を引き起こす直接的な原因(主因)

  • アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、食物アレルギー)
  • 脂漏症
  • 異物(耳毛、植物など)
  • 寄生虫(ミミダニなど)
  • 内分泌疾患(クッシング症候群、甲状腺機能低下症など)
  • 自己免疫疾患

アレルギーが原因の場合は、全身にも症状が出ていることがほとんどです。

脂漏症の場合は、皮膚の新陳代謝が異常に速くなり、フケや皮脂が多くなり、日常的に特有の臭いや皮膚のベタつきがあります。

寄生虫や異物は取り除くことで完治することはできますが、アレルギーや内分泌疾患が原因の場合は、皮膚のケアやお薬を使いながら、生涯にわたって耳から全身状態を管理することが多いです。

 外耳炎が起こることで成立してしまう要因(副因)

外耳炎が起こった結果、二次的に生じる因子で、外耳炎を悪化させる要因にもなります。

  • 細菌(ブドウ球菌や緑膿菌など)
  • 酵母(マラセチア)
  • 誤った耳のケア(不適切な点耳薬や洗浄液の影響)

外耳炎によって皮膚バリア機能が低下することで、二次的に細菌やマラセチアが増殖しやすくなります。

これらは皮膚にもともといる常在菌ですが、過剰に増殖すると外耳炎を悪化させてしまいます。また、耳の中の皮膚を傷つけてしまう不適切な耳のケアが原因で外耳炎を悪化させることもあります。

しかし、主因が良好に管理できれば、副因の多くは取り除くことも可能です。治療を効率よく行い再発を予防するには、このような原因や要因をいかに総合的に管理できるかが重要になってきます。

外耳炎の診断と治療

愛犬が外耳炎になってしまった場合、どのような診断や治療が必要なのでしょうか。診断と治療の方法や治療期間、費用などを解説します。

外耳炎の診断方法

外耳炎を効果的に治療するためには、原因を特定することが大切です。獣医師が外耳炎を診断する際は、外耳道の中にスコープを入れ、炎症の程度や異物・腫瘍の有無、鼓膜に損傷がないかなどを調べます。愛犬が痛がったり暴れたりする場合には、麻酔をかけるケースもあります。

また、外耳道からサンプルを採取し、顕微鏡で細菌や寄生虫の有無を確認します。炎症の原因を特定することで、適切な薬や治療方法を判断することが可能です。

耳状態の確認

視診により、左右の耳の状態を確認し、その後、耳鏡や耳道内視鏡(ビデオオトスコープ)などを用いて下記を確認します。

  • 炎症の程度や範囲
  • 耳垢の量
  • 耳毛の量と位置、耳道の細さ
  • 異物やポリープなど
  • 鼓膜の状態(確認できれば)

耳垢の検査

耳垢があった場合は、採取したのち、顕微鏡にて下記を確認します。

  • ミミダニ(寄生虫)
  • 細菌やマラセチア(酵母)
  • 炎症細胞

皮膚の症状の確認

アレルギー性皮膚炎、寄生虫感染、自己免疫性皮膚疾患との関連がないかを確認します。

  • 赤みやかゆみが局所的か全身的か
  • 皮膚のベタつき、フケなどの有無
  • 脱毛パターン、皮膚の厚みなど

一般状態の確認

「嘔吐や便回数の増加、軟便、おならなどの消化器症状」があれば食物アレルギーとの関連性を疑い、「多飲、多尿、多食など」があればホルモン疾患との関連性を疑います。これらを総合的に判断し、耳だけの問題なのか、基礎疾患との関連性があるのか、鑑別していきます。

犬の外耳炎の治療方法

原因を特定したあとは、それを取り除くための処置を行ないます。外耳炎の治療は、大きく分けて3つ。耳洗浄、点耳薬、基礎疾患の治療です。まず、耳の洗浄と点耳薬により、汚れていたり、炎症がある耳の状態を元に戻していきます。この二つを行いながら、外耳炎を起こした真の原因探索とその管理を並行して行っていくことが重要です。

外耳道の洗浄や毛の除去

まずは専用の洗浄液などで外耳道の中を洗浄し、異物や寄生虫を取り除きます。このとき、耳の周りや外耳道内の毛を切ることもあります。

点耳薬

原因に応じて、炎症を抑える薬や細菌感染を防ぐ薬、寄生虫を駆除する薬などを愛犬に投与します。

外科処置

外耳炎が重症化して外耳道が厚くなっていたり、腫瘍があったりする場合には、外耳道組織の除去などの外科手術が必要になることもあります。

外耳炎の予後

外耳炎の原因が寄生虫や異物などの原因の場合は、それらを取り除くことで完治が期待できます。

しかし、アレルギーやホルモン疾患は、完全に治すことは困難であり、良い状態を維持・管理していく必要があります。このような原因の場合は、外耳炎の症状が落ち着いた後も、再発を防ぐ為の定期的な継続治療が必要になります。

治療期間と治療費

外耳炎の治療には、1か月ほどかかることが多いです。ただし、重症化・慢性化している場合や基礎疾患が絡む場合は、長期にわたる治療が必要になる場合もあります。

治療費はスムーズに治療できた場合、一般的に1.5万円〜2万円ほどが相場です。しかし、原因が多岐にわたることから、上記の金額はあくまでおおよそであり、金額は症状の程度や動物病院によっても異なるので、かかりつけの動物病院に確認してください。

外耳炎の予防

外耳炎を少しでも予防するためには、どうすればよいのでしょうか。自宅での耳掃除や耳のチェックの方法を紹介します。

外耳炎の原因でも述べたように、外耳炎になりやすいリスク要因(素因)があります。

このリスク要因を少なくすることが、外耳炎の予防に繋がります。

垂れ耳

日本では、春先からの高温多湿な時期に外耳炎になりやすい傾向にあります。

2−3月のやや涼しい時期に耳の中の状態を確認しておき、外耳炎を引き起こしやすい要因があれば、取り除いておきましょう。

耳道が狭い短頭種や耳毛が多い犬種

耳には、耳垢を外に排泄する自浄作用という機能があります。

一部の犬種はこの機能がうまく働かず、耳垢の排泄がうまくできないことがあるので、1−2ヶ月おきの定期的な耳の中の検診をしましょう。

免疫が未熟、低下した状態(子犬、高齢)

愛犬を飼い始めたら、三ヶ月間は毎月一回は検診を受けておくことをお勧めします。

おうちでの耳の管理ができるように、耳の状態を確認するだけでなく、耳の触り方や、耳のケアの仕方などもお伝えします。中齢以降の愛犬は、少なくとも3ヶ月おきの定期検査をお勧めします。

病は症状が出始めると、ある程度進行している状態になり、身体の状態を元に戻すのに、時間がかかってしまいます。しかし、早期発見と早期対応ができれば、たとえ病が見つかったとしても、早めに回復することができ、二次的な身体のトラブルを回避することができます。

自宅での不適切なお耳ケア

耳そうじや耳を洗うことは、実はリスクがあります。

綿棒の誤った使用よって、耳の通り道に傷がついて、それが元で外耳炎を引き起こすこともあります。自宅での耳掃除を行いたい場合は、事前に動物病院で確認しましょう。

耳を清潔に保つ

外耳炎の予防には、愛犬の耳の中を清潔に保つことが効果的です。定期的に耳の外側の汚れを拭き取ってあげましょう。

綿棒などを使用して耳の奥を掃除しようとすると、かえって耳の粘膜を傷つけたり、外側に排出されてつつある耳垢を耳の奥に押し込んでしまうことがあります。おうちでは、耳の外側の汚れを軽く拭き取る程度にしましょう。

また、耳掃除をしすぎるのもよくありません。あまりに頻繁に行なうと、外耳道が傷ついて炎症の原因になってしまいます。自宅での耳掃除の頻度は、月に1〜2回程度が理想的です。

定期的に耳の状態をチェックする

毎日の歯磨きやブラッシングなどのケアとあわせて、定期的に愛犬の耳の様子をチェックすることも大切です。愛犬の耳をめくり、耳垢の蓄積や赤み、悪臭などがないかを確認しましょう。

耳が汚れやすい子や、暖かくなり耳が汚れやすくなる春先〜夏の時期は、月に一回程度は、病院で耳の中の状態を確認しておくと、耳状態をより良く保て、安心して生活できるのでおすすめです。

犬の外耳炎のまとめ

犬の外耳炎はとてもよくみられる耳トラブルで、再発を繰り返すことも多い皮膚疾患です。

原因も多岐に渡り、点耳ができる子もいれば、できない子もおり、その子に対応した治療方法を考える必要があります。

また、よかれと思ってやっていたおうちでの耳のケアが、実は外耳炎を悪化させてしまっているかもしれません。

耳のトラブルを繰り返す子や、耳のことで気になることがあれば、お気軽にご相談くださいね。

外耳炎は治療をしないと悪化してしまい、重症化すると鼓膜を障害したり、中耳にまで炎症が広がる可能性があります。症状がみられたらなるべく早く動物病院に行きましょう。自己判断での耳掃除や薬の投与は症状を悪化させてしまう危険性があるので、必ず獣医師の診察を受けてくださいね。

外耳炎などを予防するためには、耳掃除で耳の中を清潔に保つように心がけ、定期的に耳の中の状態をチェックすることが大切です。もし愛犬の耳に異変がみられたり、外耳炎についての疑問や悩みがあったりする場合は、お気軽にご相談ください。

担当医師のご紹介
立川院 日本獣医皮膚科学会認定医 木村友紀

2023年10月にKINS WITH動物病院グループの一員になりました、渡邊動物病院の皮膚科認定医の木村です。
皮膚のお悩みは、原因が複合的なことが多く、特定が難しいと言われています。足先に皮膚炎の症状が出ていても、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性もあれば、足の関節が痛くて足を舐めて皮膚炎になっている可能性もあります。
私は皮膚科認定医でありながら、腫瘍認定医でもあります。日本獣医循環器学会や日本獣医歯科研究会に所属し、幅広い知見があります。皮膚に限らず、幅広い分野に精通しているからこそ、皮膚病の要因をあらゆる観点から分析し、根拠をもって適切な治療方針をご提案します。