犬の皮膚糸状菌症。原因と症状、治療について(犬猫の皮膚科医監修)

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犬の皮膚糸状菌症の概要

犬の皮膚糸状菌症とは

皮膚糸状菌症とは、皮膚に感染するカビの一種である「皮膚糸状菌」によって引き起こされる病気のことです。糸状菌は、地球上に広く分布しており、土壌や植物、動物の皮膚などに生息しています。動物や人間の皮膚に寄生することで、発症することがあります。

カビと聞くと、あまりいい印象はないかもしれませんが、実は、犬も猫もヒトの皮膚の上にもカビはいます。

私たちが「カビ」と読んでいるのは、「真菌」のことです。

糸状菌(青カビ、水虫など)、酵母(イースト菌、ビール酵母など)、きのこ(しいたけ、まいたけなど)をまとめて真菌と呼んでいます。

「真菌」は広い意味でのカビ、「糸状菌」は狭い意味でのカビで使われることが多いです。

皮膚糸状菌症とは、この糸状菌の一種である「皮膚糸状菌」が皮膚に感染してさまざまな症状を引き起こす皮膚疾患です。

珍しい皮膚病ではないですが、犬猫だけでなく、私たちヒトも発症することがあるので、注意が必要です。

今回は糸状菌が原因で発症する皮膚病についてわかりやすく解説します。

犬の皮膚糸状菌症の原因

皮膚糸状菌は伝染性なので、菌に直接触れることで感染します。日常生活の中にも感染する可能性は潜んでいます。犬に感染する皮膚糸状菌はおもに2種類(Microsprum spp.,Trichophyton spp.)どちらも直接接触により、感染が成立します。

・糸状菌に感染した犬猫との接触や感染した毛やフケとの接触

・外飼いで、土遊びが好きなわんちゃん(土壌中の糸状菌の感染)

・免疫力が弱い子犬や基礎疾患のある高齢のわんちゃん

うさぎやハムスターも糸状菌を持っている可能性があるので、同居している場合は注意が必要です。

犬の皮膚糸状菌の症状

皮膚糸状菌に感染したわんちゃんは次の症状を示すことがあります。

  • からだに円形、不整形、あるいはびまん性の脱毛がみられる 
  • 皮膚がかさつく、フケがでる
  • 毛包炎、滲出液がでるようなしこりができる

皮膚糸状菌の犬の検査

まず、わんちゃんの皮膚症状について問診をとります。皮疹と合わせて糸状菌の感染の可能性が高い場合は、次のような検査を合わせて総合的に判断していきます。

ウッド灯検査

皮膚糸状菌に感染している疑いがあるかを確認する検査です。暗室で特定の波長の光を当てると、糸状菌(M.canis)に感染している被毛が青リンゴ色に発色します。

毛検査・皮膚搔爬物直接鏡検

糸状菌に感染した被毛や角質を証明するための検査です。感染部の一部の毛を抜いたり、フケを掻き取り、顕微鏡で確認します。顕微鏡で、糸状菌の胞子や菌糸が見つかれば、皮膚糸状菌症として診断を進めます。

皮膚生検・皮膚病理学的検査

上記の検査で診断が困難な場合や、糸状菌の深部への感染が疑われる場合に検討する検査です。

真菌培養検査

感染部の被毛を特殊な培地で培養し、2〜4週間ほどで結果判定を行う検査です。

糸状菌の原因菌を同定し、感染源を推測・遮断したり、診断を確定的なものにできるほか、治療終了の判定や、同居動物の無症候キャリアの検出にも使用します。

PCR検査

皮膚糸状菌のDNAを検出する検査です。多くの場合、治療終了判定の目安に使用します。

犬の皮膚糸状菌症の治療

皮膚糸状菌症と診断されたら、わんちゃんの皮膚から真菌を除去して被毛と皮膚を正常な状態に戻し、他の家族への感染拡大を防ぐことが重要です。皮膚糸状菌症の治療には局所治療、全身療法の二つがあります。加えて、ヒトや他のペットちゃんへの感染予防や治療後の再発予防も兼ねて、環境対策を並行して行うことも重要です。

局所療法

局所性の病変は、抗真菌剤のローションやクリームタイプの塗り薬や抗真菌シャンプーなどの外用療法のみでも管理できることがあります。

全身療法

複数部位の感染や深部への感染が‘疑われる場合は、抗真菌薬の内服による積極的な治療を行います。抗真菌薬の内服は嘔吐や下痢などの消化器症状や、肝障害がでる場合があるため、わんちゃんの様子をよくみて担当獣医師と相談しながらの投与をおすすめします。また、上記の局所外用療法の併用も検討します。

こういった内服治療は通常、少なくとも6週間は継続して投与が必要になることが多いです。獣医師は完治の判断をするために、症状が消失して1~2週間後に皮膚糸状菌の培養を行います。一般的に、2回連続して培養が陰性であれば、感染していないことの証明になります。

環境対策

糸状菌に感染した被毛やフケが舞うことによるヒトや他の同居動物への感染リスクを下げるため、また感染したわんちゃんが再感染するのを避けるためにも住環境にも手を加えることが必要です。

犬の隔離

単独飼育の場合は、行動できる範囲を制限する。
多頭飼育の場合は、症状のある子のみ隔離する。

同居動物の診察・治療

同居動物の保菌状態を確認し、状況に応じて、感染しているわんちゃんと同様の治療を検討する。

清掃

生活環境中にある被毛やフケは感染源になるため、掃除機や水拭き。コロコロなどで、できる限り除去する
エアコンや空気清浄機などのフィルター類も清掃する。
感染が酷い場合は、わんちゃん関係の用品を廃棄する。

消毒

塩素消毒が糸状菌に有効とされている
塩素による腐食が起きない用品のみに適応する

菌の胞子は環境中に排出され、他の動物や家庭内の人間に感染する可能性があります。 ペットの生活環境は、頻繁に消毒し掃除機やモップをかける必要があります。 わんちゃんのベッドやおもちゃは必ず洗うようにしましょう。また、エアフィルターは頻繁に交換し、わんちゃんが衛生的な生活環境を作ってあげる必要があります。

犬の皮膚糸状菌症の予防

菌を予防するためには、感染した動物、衛生的でないものに直接触れる状況を避ける必要があります。

皮膚糸状菌は毛や皮膚の上にあるケラチンというタンパク質をエサにしています。この菌は、適度な湿気と暖かい環境で増殖するため、梅雨時期から残暑にかけて、感染が増えることがあります。

皮膚糸状菌は感染力が強く、わんちゃんからヒトへも感染します。また、使用していないケージやキャリーは、しっかり洗浄してから収納するように心がけましょう。

また感染した被毛やフケは、環境内で脱落しても、長期間感染源になります。わんちゃんのおもちゃや寝具、リードやハーネス、首輪などのアクセサリー類は全て洗うようにしましょう。特にカーペットはこまめに掃除機をかけ、感染した動物やヒトとの接触は避けると良いでしょう。

獣医師にわんちゃんに最も効果的な薬用シャンプーを勧めてもらうと良いでしょう。そうすることで、皮膚を清潔に保ち菌が増えにくくすることができます。

皮膚糸状菌症になった犬のその後

子犬のわんちゃんは感染しやすいですが、成長とともに適切な治療で回復していきます。

成人のわんちゃんの皮膚糸状菌症は治療しなくても治る可能性もありますが、治療により回復は早まり、生活環境や飼い主さま、同居動物への感染を防ぐことができるため、早期に病院への受診と治療をおすすめします。中高齢で糸状菌に感染する場合は、感染しやすい基礎疾患をかかえていることが多いため、一度健康診断を行ってもらうといいでしょう。

適切な抗真菌療法に加え、感染源や易感染要因の管理を行うことで、3ヶ月程度で寛解することが多いです。そのため、年齢に関わらず定期的な健康診断を受けることも予防において重要です。わんちゃんとの生活で気になることがありましたら、お気軽にご相談くださいね。

担当医師のご紹介
立川院 日本獣医皮膚科学会認定医 木村友紀

2023年10月にKINS WITH動物病院グループの一員になりました、渡邊動物病院の皮膚科認定医の木村です。
皮膚のお悩みは、原因が複合的なことが多く、特定が難しいと言われています。足先に皮膚炎の症状が出ていても、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性もあれば、足の関節が痛くて足を舐めて皮膚炎になっている可能性もあります。
私は皮膚科認定医でありながら、腫瘍認定医でもあります。日本獣医循環器学会や日本獣医歯科研究会に所属し、幅広い知見があります。皮膚に限らず、幅広い分野に精通しているからこそ、皮膚病の要因をあらゆる観点から分析し、根拠をもって適切な治療方針をご提案します。