良性?悪性?犬の腫瘍の種類と診断方法について

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わんちゃんに腫れやしこりを見つけた時、飼い主さまは「もしかして癌?」と心配になったりパニックになったりすることがあるかもしれません。そこで今回は、わんちゃんに腫瘍が見つかった時に飼い主さまが落ち着いて行動できるよう、腫瘍の種類や症状、診断方法などについてお話させていただきますので、ぜひ、お役立ていただければと思います。

犬の腫瘍の概要と原因

腫瘍とは、細胞の異常な増殖によって形成される腫れやしこりのことで、腫瘍には、良性と悪性、いわゆる「がん」の2パターンがあります。腫瘍の原因には、犬種によって腫瘍ができやすいなどの遺伝によるもの、加齢に伴う免疫力の低下、除草剤、殺虫剤などの化学物質や紫外線に長時間あたるなどの生活環境によるものなどが考えられており、これらの原因がさまざまに組み合わさることで、腫瘍の発生リスクが高まる可能性があるようです。

良性腫瘍の種類と症状

良性の腫瘍は、わんちゃんの体を侵害したり、命をうばうことのないものを言います。では、良性の腫瘍にはどのようなものがあるのでしょうか。

<脂肪腫>

脂肪腫は、皮下の脂肪細胞が増殖する良性の腫瘍です。太っているわんちゃんや高齢のわんちゃんによく見られ、皮下にすぐ触れることができる円形や楕円形のしこりとして現れます。柔らかかったり硬かったり、触れて動くこともあり、体のどの部分にも発生しますが、特に腹部や胸部に多く見られるようです。

初めは小さい腫瘍でも、大きくなることで筋肉や血管などに影響を与えて痛みが生じる場合や、悪性の腫瘍に見た目や触れた感触が似ている場合もありますので、発見した場合は放置せず獣医師の診察を受けるようにしましょう。

<皮膚組織球腫>

「組織球」とは、感染症などと戦う免疫細胞の一種で、皮膚組織球腫は、皮膚の組織球から発生する2歳未満の若いわんちゃんによく見られる良性の腫瘍のことです。2.5cm以下のサイズで赤く盛り上がったり、上部が平らであったり、潰瘍になるなどの症状がありますが、数週間以内に消えると言われています。

<乳頭腫>

乳頭腫は一般的に「イボ」とも呼ばれ、犬パピローマウイルスによって引き起こされることが多いですが、ウィルスが関与していないものもある良性の腫瘍です。わんちゃんの口の中、唇、目の周囲にカリフラワーのようなイボが複数現れ、痛みを伴う場合もあります。乳頭腫は通常、数週間から数ヶ月で消えますが、わんちゃんが不快感を感じている場合は、獣医師に手術を勧められることもあるようです。また、わんちゃんからわんちゃんへ感染する可能性があるため、他のわんちゃんとの接触は避け、わんちゃんの触れたおもちゃや寝具など身の回りの環境なども清潔に保つよう心がけましょう。

悪性腫瘍の種類と症状

悪性の腫瘍は、いわゆる「がん」のことで、わんちゃんの体の他の組織や臓器に広がり、転移をしながら体をむしばむ可能性のあるもののことを言います。腫瘍の種類や進行度によっては、わんちゃんに重大な健康リスクをもたらしますので、獣医師による診察を受け、適切に診断することが大切です。

<肥満細胞腫>

肥満細胞腫は、わんちゃんに見られるもっとも一般的な皮膚がんの一つで、わんちゃんの体の中にある免疫細胞の一種「肥満細胞」と呼ばれる細胞が腫瘍化したもののことを言います。肥満細胞腫は、ミドルやシニアのわんちゃんに多く見られ、皮膚にしこりとして1つだけ、または複数発生することもあります。脱毛や炎症などを伴うこともありますが、良性腫瘍のようにイボ程度にしか見えないこともあります。徐々に大きくなるものもあれば、数年小さい状態でありながら、あるときから急速に増殖し症状をだすものもあります。ずっとあるからと安心せず、一度は細胞診検査をすることをおすすめします。

<リンパ腫>

リンパ腫は、血液中に流れる「リンパ球」と呼ばれる特定の免疫系の細胞から発生する、血液のがんの一つで、症状は主にリンパ節の痛みのない腫れで、首や胸、脇の下、鼠径部、膝の後ろなどにあるリンパ節で見られます。初期には症状があまりありませんが、進行すると食欲不振や嘔吐、下痢などの症状も現れ、無気力や倦怠感など、わんちゃんに元気がなくなってしまうなどの症状も見られます。リンパ腫はリンパ管を通し全身に広がっているため、全身の疾患と見なされ、全身療法で治療する必要があります。発生部位によりいくつかの型に分類されていますが、わんちゃんでは多中心型(体表のリンパ節が腫れる)、消火器型(難治性の胃腸障害として現れる)が多くみられます。

<骨肉腫>

骨肉腫は、骨芽細胞から発生する悪性腫瘍の一種で足にできることが多く、骨折、手足の腫れ、足を引きずるなどの痛みを伴うがんです。骨のがんでもっとも一般的ながんであると言われており、大型犬では1~2歳の若齢期でも発症することがあります。一般的には中高齢期でよく見られ、大型犬では四肢に、小型犬では体幹に発生がみられることが多いです。

<血管肉腫>

血管肉腫は、非常に重篤ながんと言われており、早急な対応をしなければすぐに死にいたる場合もあります。また、血管肉腫は多くの場合、脾臓で見つかりますが、心臓や肺、皮膚などの他の臓器可能性もあるから発生する場合もあります。血腹といって、腫瘍がお腹の中で破裂した時に診断されることが多いですが、この状態ではすでに緊急事態と言えます。緊急事態を回避するためにも、定期健診などで小さいうちに発見し、万が一歯肉が青白くなる、呼吸困難、起立不能などの症状がわんちゃんに現れた場合は、早急に獣医師の診察を受けるようにしましょう。

<悪性黒色腫>

黒色腫は、「メラノサイト」と呼ばれる皮膚の色素細胞から発生する腫瘍で、多くの場合、黒い色素をもった腫瘍です。が、色素がなくピンク色にみえる場合もあります。わんちゃんの悪性黒色腫の好発部位は粘膜のため、口腔、目が多いですが、爪の根本、皮膚などでも発生します。

わんちゃんには皮膚の腫瘍が多い?

ここまで、良性と悪性の腫瘍をご紹介してきましたが、どちらにもわんちゃんの皮膚における腫瘍が多いことにお気づきかと思います。わんちゃんの腫瘍は、良性の腫瘍では脂肪腫、悪性の腫瘍では肥満細胞腫が多く発生するようです。しかし、皮膚に現れる腫瘍の場合、毎日のブラッシングやわんちゃんと触れ合うことによって、早期に発見ができるという一面もあります。

では、もしわんちゃんの体に腫瘍を見つけた場合、飼い主さまはどのように行動すればよいでしょうか。

腫瘍かな?と思ったら

わんちゃんの体に腫れやしこりのようなものに触れた時、飼い主さまは「もしかして腫瘍かな?」「悪性だったらどうしよう?」などと不安になったり、「様子見で大丈夫かな?」と思ったり、良性か悪性かの見分け方や、獣医師による診察に行くべきかどうかについて悩むかもしれません。しかし、腫瘍が良性か悪性かを見分けることは、飼い主さまお一人で判断することは非常に危険です。腫瘍とは「細胞の異常な増殖によって形成される腫れやしこりのこと」とご紹介した通り、体の中で起こっていることなので見た目だけでの判断はできません。よって、飼い主さまお一人での判断は避け、早めに獣医師の診察を受けるようにしましょう。

腫瘍の診断方法

見つけた腫れやしこり、腫瘍の診断はどのようにされるのでしょうか。

<獣医師による診察>

もし、わんちゃんの体に腫瘍を見つけた場合、まずは獣医師の診察を受けることが大切です。そして、獣医師の診察を受ける際は、次のようなことを伝えるとよいでしょう。

・腫瘍にいつ気がついたか?
・腫瘍の場所は?
・腫瘍を見つけた時から変化はあったか?

・変化があった場合、大きくなるスピードは?

・舐めたり噛んだりしていないか?

獣医師による診察の際は、腫瘍の状態やわんちゃんの様子などを伝えることで、検査や診断の参考になることもありますので、メモなどに残しておくとよいかもしれません。

<病理検査で行われること>

腫瘍が良性か悪性かを診断するには、腫瘍組織からの病理検査が必要です。が、その前に体に負担の少ない細胞診検査で腫瘍か否かの予測をし、CT検査、超音波検査、血液検査などで進行具合や全身状態の把握を行います。腫瘍の細胞を針で刺して吸引する細胞診検査で診断できる腫瘍もありますが、腫瘍を切除し(全身麻酔や鎮静が必要)、外部の検査センターで腫瘍組織を検査してもらう「病理検査」で診断するのが基本となります。

このように、腫瘍が良性か悪性かを正確に見分けるには、さまざまな方向からの検査やアプローチが欠かせません。よって、良性か悪性かの見分け方を飼い主さまお一人で判断せず、わんちゃんの体に腫瘍を見つけた時は、まず落ち着いてメモをとり、必ず獣医師の診察を受けるようにしましょう。

悪性腫瘍の治療方法と手術費用について

わんちゃんの腫瘍が悪性だと診断された場合、次のような治療が行われます。

・外科的な手術による切除

・抗がん剤や化学物質などによる化学療法

・放射線療法

・免疫本来の力を利用した免疫療法

腫瘍の悪性度や進行度、わんちゃんの年齢、体力、基礎疾患などを獣医師と十分に考慮し、わんちゃんと飼い主さまにとって適切な治療方法を選択しましょう。そして、飼い主さまが、わんちゃんの治療に対してどれだけ積極的でありたいか、ということも大切にしてください。

がんなどの悪性腫瘍の治療は、長期に渡る場合もあります。動物病院によってさまざまではありますが、手術費用に加え治療費が高額になるということも考慮しておくことが大切です。

腫瘍の早期発見と、適切な治療を受けるために飼い主さまができること

万が一、腫瘍を見つけた場合でも、それがすべて悪性であるとは限りません。そして、悪性であった場合でも、早期発見できれば早期治療が可能ですし、治療後のわんちゃんの生活の質をできるだけ維持してあげることも可能かもしれません。最後は、腫瘍の早期発見に役立つ症状や、日々わんちゃんのケアを行う中で、飼い主さまにできることをお話させていただきます。大切な家族であるわんちゃんのために、ぜひお役立てください。

①悪性腫瘍を早期発見するために注意すべき症状

・皮下の腫れやしこりがある

・傷が治りにくい

・出血やおりものがある(女の子)

・食欲や体重の減少

・無気力、元気がない、運動をしたがらない

・咳など呼吸に違和感がある

・食事や飲み込む時に問題がある

・体に痛みがあり歩き方に違和感がある

・トイレを我慢する

・強いにおいがある

・一般的な治療に反応しない

これらの症状がわんちゃんに見られる場合、すべて悪性腫瘍があるというわけではありませんが、悪性腫瘍がある場合の兆候の一部として知っておくと役立つかもしれません。そして、症状がある場合には、早期発見早期治療のために、必ず獣医師の診察を受けるようにしましょう。

②毎日のケアで丁寧なチェックをする

ブラッシング時にわんちゃんの皮膚に触れたり、歯磨きをする際は口腔内のチェックを行ったり、目や耳、四肢などわんちゃんの全身のチェックや、獣医師による定期検診、体調がよいかどうかなどの様子を記録に残すなど、日頃からわんちゃんの心身の状態についてよく観察しておくことが非常に大切です。

普段のわんちゃんの状態を知っていれば、何か体に異変が起こった時や、元気がないなどの普段と違う様子に早く気づける可能性もあります。ぜひ、毎日のケアと同時に、わんちゃんとの楽しいコミュニケーションの一つとして、心身のチェックも丁寧に行ってあげるとよいでしょう。

③適切な治療を受けるために

腫瘍の治療にはさまざまな方法がありますが、わんちゃんの年齢や体力、基礎疾患などを考慮するとともに、手術や治療に対する飼い主さまの希望、治療中や治療後のわんちゃんと飼い主さまの生活の質などについても、ある程度方針を考えておく必要があるでしょう。そうすれば、万が一、わんちゃんに腫瘍が見つかった場合でも、「良性か?悪性か?」と心配しすぎたり不安でパニックになったりすることなく、落ち着いて行動できるかもしれません。

そして、治療が必要になった場合は、信頼できる獣医師と十分に話し合い、飼い主さまの希望を伝えた上で、わんちゃんと飼い主さまにとって、もっとも適切で納得できる治療方法を選択することが非常に大切です。

立川院 日本獣医がん学会認定医 木村友紀

渡邊動物病院の獣医腫瘍科認定医の木村です。
癌(がん)・腫瘍の治療は、愛犬・愛猫にとっても、飼い主様にとっても負担が大きいです。だからこそ、その子に寄り添い、外科手術・化学療法・放射線療法の中から、治療を行います。
また、当院では緩和ケアも積極的に取り入れています。鎮痛剤だけではなく、闘病中の愛犬・愛猫の負担を少しでも減らすために、ご家庭でもできるお手入れの仕方や食べ飲み時の介護などもお伝えいたします。

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