犬のリンパ腫の概要と治療について

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飼い主さまにとって、わんちゃんのリンパ腫について知っておくことはとても大切です。いざその状況になった際、あわてることなくわんちゃんにとって最善の治療を選択するために役立つことができたら幸いです。

リンパ腫の概要と症状

リンパ腫は、わんちゃんの診断されるがんの中でもっとも一般的な種類のがんの一つです。リンパ腫は血液中に流れるリンパ球と呼ばれる特定の免疫系の細胞から発生するため、体のある一部の疾患ではなく全身の疾患と見なされ、全身療法で治療する必要があります。

わんちゃんのリンパ腫の腫瘍のタイプは30種類以上存在し、その性質は急速に進行するものもあれば、非常にゆっくりと進行し慢性的な難治性疾患として管理されるものもあり様々です。

リンパ腫の兆候

わんちゃんの多中心型リンパ腫の兆候は、主にリンパ節の痛みのない腫れです。首や胸、脇の下、鼠径部、膝の後ろなどにあるリンパ節で見られ、飼い主さまも見つけやすいかもしれません。普段から行うブラッシングや定期検診などで見つけることができ、一部のわんちゃんには食欲が落ちたり、嘔吐、活動レベルの低下も見られます。

リンパ腫の種類

ここでは、一般的なわんちゃんのリンパ腫のうち、4つのタイプのリンパ腫についてご紹介します。

① 多中心型リンパ腫

わんちゃんのリンパ腫の中でもっとも一般的であり、その割合は80〜85%を占めています。急速に大きくなるものと、ゆっくり大きくなるものがありますが、触れるリンパ節が大きいことが、もっともわかりやすい症状です。飼い主さまも気がつきやすい症状と言えるでしょう。

② 消化性リンパ腫

わんちゃんのリンパ腫で2番目に多く、症状は胃腸障害です。食欲の低下、嘔吐や下痢、体重の減少などが挙げられます。しこりを作る場合と作らない場合があり、一般的な胃腸障害の治療に反応しにくいのが特徴です。

③ 縦隔型リンパ腫

縦隔型リンパ腫は、わんちゃんのリンパ腫の中では稀なタイプです。胸部領域のリンパ節が腫大し、顔や前脚の腫れ、胸に水が貯まる、呼吸が苦しいなどの症状があります。

④ 節外性リンパ腫

節外性リンパ腫は、リンパ節以外の臓器に見られるリンパ腫です。皮膚、眼、腎臓、肺、または神経系で発生することがあるほか、骨のリンパ腫には痛みや骨折をひき起こす場合があります。

リンパ腫の治療と副作用について

わんちゃんのリンパ腫について、兆候、リンパ腫の種類やその症状についてご紹介してきました。次は、飼い主さまにとって気になる、リンパ腫の治療やその副作用についてふれていきます。リンパ腫に効果的な治療はあるのか、またそれはどんな治療方法なのか一緒に見ていきましょう。

<化学療法>

わんちゃんのリンパ腫にもっとも効果的な治療法は化学療法です。多くの化学療法は、静脈内注射によって投与されますが、錠剤やカプセルとして口から投与される場合もあります。場合によっては放射線療法や手術を行うこともあり、獣医師としっかり相談し治療方法や治療後のわんちゃんの生活の質の確保についてもよく考え、明確な目的を持つことが大切だと言えるでしょう。

<治療の進め方>

リンパ節が腫大しているすべてのわんちゃんがリンパ腫であるとは限りません。正しく効果的な治療をするためには、獣医師による事前の検査や診断結果に基づいて計画的に行われます。

①リンパ種の診断

リンパ腫の診断でもっとも一般的な検査方法は、細胞診と呼ばれる細い針をつけた注射器によって、腫大したわんちゃんのリンパ節からその一部の細胞を吸引し診断する方法です。わんちゃんの負担は最小限に抑えられ簡単に行うことができる検査です。場合によっては診断するのに大きめの組織が必要になることもあり、その場合は鎮静処置や全身麻酔によって組織を採取し、より詳しい検査が必要なこともあります。

治療の前には血液検査や胸腹部 X 線検査、心臓・腹部超音波検査などを行います。わんちゃんの全身状態やリンパ腫が体のどの位置にあるのか、進行具合など理解するためにも必要です。

②治療計画

わんちゃんのリンパ腫の治療には、様々な治療計画や手順、考え方などが用意されており、多くの場合、数週間から数ヶ月単位で注射や内服によってお薬を投与します。わんちゃんのリンパ腫の中でもっとも一般的なリンパ腫である多中心性リンパ腫には、人間と同様の治療手順を踏む方法がわんちゃんにも採用されています。しかし、

最適な治療方法はわんちゃんによって様々であり、事前の診断結果やわんちゃんの年齢や健康状態、リンパ腫の程度や種類、治療の管理方法など、獣医師とよく話し合い治療方法を決定することが大切です。

③副作用

化学療法によって体調を崩すわんちゃんもいますが、多くのわんちゃんは人間よりも副作用は少ないと言われています。病院で管理が必要になるほどの副作用があらわれるわんちゃんは、リンパ腫の治療を受けたわんちゃんのうち5%未満です。

一般的な副作用は、発熱、食欲不振や活動量の低下、数日持続する嘔吐や下痢が挙げられますが、ひどい副作用が見られた場合は獣医師に相談しましょう。脱毛に関しては、プードル、オールド・イングリッシュ・シープドッグ、ビション・フリーゼなどの例外を除いて、ほとんど見られません。

④治療の効果と再発について

一般的に、多中心性リンパ腫のわんちゃんで、人間と同様の治療手順を踏んだ場合、そのうちの50%以上のわんちゃんがリンパ腫の完全な寛解または部分的な寛解が可能です。

しかし、完全寛解とは、全てのリンパ腫の兆候が一時的に消失したことを意味するもので、病気を完全に無くすという意味の「治癒」とは異なることを知っておく必要があるでしょう。

また、残念ながらほとんどのリンパ腫のわんちゃんは、ある地点で再発すると言われています。化学療法による平均寛解期間は2~6ヶ月で、無治療でのわんちゃんの生存期間は4〜6週間です。これらは平均的な数値ですので、早く亡くなってしまうわんちゃんもいれば、1年以上生きるわんちゃんもいます。できれば治療を頑張るわんちゃんの苦痛を緩和し、わんちゃんの生活の質を維持してあげたいものです。

次の項目では、リンパ腫とその治療によるわんちゃんの苦痛の緩和やお家でできるケアについてお話しします。

痛みや苦痛の緩和とお家でできるケアについて

リンパ腫はほとんどのわんちゃんにとって強い痛みを伴わないようですが、だるさや食欲低下、免疫の異常、呼吸苦がみられます。化学療法(抗がん剤治療)はこれらのわんちゃんの苦痛を緩和するための緩和治療でもあります。

<痛みや苦痛の緩和>

化学療法の感受性によっては吐き気や食欲の低下、下痢などがみられます。近年はいつ、どのような副作用がでるかわかってきてるので、予防処置をすることでだいぶ軽減できるようにはなってきているようです。

わんちゃんに寄り添い様子をよく観察し、気がつくことがあれば獣医師に相談し早めの対処をしてあげることが、わんちゃんの苦痛の緩和につながると言えるでしょう。

<お家でのケアや注意点>

化学療法によるわんちゃんの副作用は、人が化学療法を受けて引き起こす副作用よりも程度は低いと言われています。そのため、多くの場合自宅でのケアが可能ではありますが、注意が必要なこともあります。

・嘔吐や下痢が24時間続く

・落ち込んでる

・食欲がない

・パンティング(ハァハァとわんちゃんの息が荒くなること)が多い(触ると熱い)

・排尿が多く苦しそう、尿に血が混ざっている

わんちゃんにこれらの症状がある場合は、獣医師に相談しましょう。

また、化学療法に使用されるお薬が排泄物に残っている場合がありますので、その排泄物を取り扱う場合は注意が必要です。特に、妊娠中の女性は化学療法後のわんちゃんの排泄物に触れないように気をつけましょう。

治療後の過ごし方と予後

わんちゃんのリンパ腫の治療の目的は、わんちゃんとの時間をできるだけ多く確保しながら、生活の質を維持することです。飼い主さまにできることは何があるでしょうか。

リンパ腫のわんちゃんの治療後の命は決して長いとは言えません。先にも述べましたように、治療の目的はわんちゃんと過ごす時間をできるだけ多く確保すること、そしてわんちゃんの生活の質を今まで通りとは行かないにしても快適にしてあげることです。

大好きな飼い主さまと一緒に過ごすこと、美味しいものを食べること、安心して眠ること。何かあれば獣医師に相談しできるだけ早く苦痛を緩和してあげること。

そのためには、獣医師としっかり相談を重ね治療計画を立てた上で、わんちゃんにとって最適な治療を行い、治療後は飼い主さまのわんちゃんへのサポートが不可欠と言えるでしょう。飼い主さまがわんちゃんと一緒にいてあげることが、いちばんのサポートになるかもしれません。

立川院 日本獣医がん学会認定医 木村友紀

渡邊動物病院の獣医腫瘍科認定医の木村です。
癌(がん)・腫瘍の治療は、愛犬・愛猫にとっても、飼い主様にとっても負担が大きいです。だからこそ、その子に寄り添い、外科手術・化学療法・放射線療法の中から、治療を行います。
また、当院では緩和ケアも積極的に取り入れています。鎮痛剤だけではなく、闘病中の愛犬・愛猫の負担を少しでも減らすために、ご家庭でもできるお手入れの仕方や食べ飲み時の介護などもお伝えいたします。

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