犬の歯根膿瘍。概要と原因、治療について (犬猫の歯医者監修)

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「歯根膿瘍(しこんのうよう)」という口の病気をご存じでしょうか。

わんちゃんの目の下辺りが腫れていたら、目や皮膚ではなく歯に問題があるかもしれません。もし愛犬に疑わしい症状がみられたら、なるべく早く受診して治療を受けましょう。

今回は、歯根膿瘍の原因や症状、治療方法について解説します。

犬の歯根膿瘍とは?

「歯根」とは、歯茎に埋まっている歯の根元部分のことです。歯根に炎症が起き、膿が溜まっている状態を「歯根膿瘍」といいます。歯の損傷や歯周病などが原因で細菌が歯の根管に入ると、歯根やその周辺で重度の感染症が引き起こされます。

歯根膿瘍になると、歯根が位置する目のすぐ下辺りに膿が溜まって腫れあがります。最終的には、皮膚に穴が開いて膿が出てしまうこともあります。年齢や性別に関係なく発症する可能性があり、痛みを伴うため早期の治療が必要です。

歯根膿瘍の原因

歯根膿瘍を引き起こす主な2つの原因について、具体的にご説明します。

歯の損傷

歯根膿瘍の原因として多いのが、ひびや欠けなどの歯の損傷です。

わんちゃんの歯は頑丈そうに思えるかもしれませんが、実は硬いものをかんで折れてしまうことがあります。ペットとして飼われているわんちゃんの26.2%が歯を損傷しているという報告もあるほど、身近なところに危険が潜んでいるのです。

骨や木、プラスチック、金属などは、愛犬の歯を傷つけるリスクが高いものです。かむことが好きな愛犬に、硬いおもちゃを与えている飼い主さまもいらっしゃるのではないでしょうか。市販されているおもちゃやおやつであっても、わんちゃんの歯を傷つける危険性があるので注意が必要です。

通常の健康な歯は、エナメル質の層が歯の内側(歯髄)を覆い、細菌から守っています。しかし、歯が折れたりひびが入ったりすることでエナメル質が欠けると、細菌が歯髄を通って歯の根元まで侵入してしまいます。その結果、歯根やその周辺で細菌が炎症を起こし、歯根膿瘍になってしまうのです。

重度の歯周病

重度の歯周病も歯根膿瘍の原因となります。

歯周病が重度に進行すると、炎症が歯の外側に沿って歯根周辺まで進みます。そして歯根の周辺の骨や組織が細菌に感染し、歯根膿瘍を引き起こします。

歯周病による歯根膿瘍を防ぐためには、日常的なわんちゃんの歯のケアが大切です。

歯根膿瘍になりやすい場所

歯根膿瘍には、発生しやすい場所があります。

損傷によって歯根膿瘍になりやすいのが、上顎第4前臼歯と呼ばれる歯です。わんちゃんの唇をめくると、上あごの奥歯に山のような形をした一番大きく目立つ歯が見えると思います。その歯が上顎第4前臼歯で、食べ物をかんだりかみ切ったりする役割があります。

わんちゃんが硬いものをかむときには上顎第4前臼歯を使うため、折れたり傷ついたりするリスクが最も高く、歯根膿瘍にもなりやすいのです。

この歯はちょうど目の下辺りに位置するため、歯根膿瘍が目の下の腫れを引き起こす要因になります。

歯根膿瘍の症状

歯根膿瘍になると、以下のような症状がみられます。

顔の腫れ

先述した通り、上顎第4前臼歯が歯根膿瘍になると、歯根が位置する目の下が大きく腫れてしまいます。下の前臼歯や大臼歯の根元が感染すれば下あごが腫れます。放置すると皮膚に穴が開き、膿瘍が破裂して膿を出すこともあります。

目の病気や皮膚の傷などと誤解されることもあるので、注意が必要です。

痛み

多くの場合、歯根膿瘍は強い痛みを伴います。しかし、わんちゃんは痛みを訴えることができません。日ごろから愛犬の様子をよく観察することで、小さな変化にも気付けます。

おもちゃやごはんをかむのをためらったり、片側だけでかんでいたりする様子がみられたら、痛みを感じているサインかもしれません。また、痛む側の顔を足でかいたり、地面にこすりつけたりするなど、かゆみに見える動作をすることもあります。

歯茎の赤みや口臭

歯根膿瘍になった歯の周りの歯茎が腫れて赤くなったり、細菌によって口臭がきつくなります。

歯根膿瘍の診断

動物病院では、まず目視で口の中の様子を観察します。明らかに歯が損傷していて症状がある場合、目視でも歯根膿瘍を疑うことができます。また歯の周辺の歯茎が明らかに炎症を起こしていたり、膿が出ているなどの症状が見られることもあります。

同時にレントゲン検査で膿瘍の広がりを確かめることも行います。ここで得られた情報は症状の広がりを見るほかに、歯の状態を確かめ治療方法を判断することにも使用します。歯根膿瘍が起きている歯と無事な歯を確実に確認することで、場合によってはわんちゃんの今後の健康を考え不要な抜歯を行わない判断をすることにも役立ちます

歯根膿瘍の治療

歯根膿瘍は痛みを伴うため、早期の治療が必要です。主な治療法や治療費について解説します。

抜歯

一般的な歯根膿瘍の治療法は、抜歯です。

抜歯では、歯根膿瘍になった歯や周囲の組織を完全に取り除き、縫合して閉じます。糸は体内に吸収されるものを使うため、抜糸の必要はありません。抜歯後2週間ほどは柔らかいごはんを与え、おもちゃで遊ぶことは1ヶ月程度控えてもらうようご案内しています。

「歯を抜いてしまうとごはんが食べられなくなるかもしれない…」と、心配になるかもしれません。しかし、わんちゃんは歯がなくても食事ができます。むしろ痛みの原因である歯を取り除くことで、元気にごはんを食べるようになることが多いのです。

根管治療

抜歯とは異なり、歯を残すことができる治療法が「根管治療」です。重要な機能を持つ犬歯などに行われることがあります。

治療方法は、人間の重い虫歯の治療と同じです。細菌感染した歯髄組織を取り除いて消毒し、詰め物とかぶせ物で保護します。特別な器具や技術が必要になるため、歯科治療を専門とする動物病院で処置を受けることになるでしょう。

根管治療はできる場合とできない場合があり、歯根膿瘍で歯の支持構造が損傷していると元に戻すことはできません。骨などの支持組織が広範囲に損傷していたり、歯が大きく欠けていたりする場合は歯を残すことが難しく、根管治療ではなく抜歯が必要になります。どちらの治療法が適しているかは、歯の場所や症状によって獣医師が判断します。

投薬

根本的な解決として抜歯や根幹治療を実施しますが、麻酔が使えないケースや術後の処置として、細菌感染を抑える抗生物質や痛みを和らげる鎮痛薬が処方されます。

投薬によって歯根膿瘍の症状を一時的に緩和することができますが、根本的な治療にはなりません。あくまで歯科処置を受けるまでの間に悪化を防ぎ、症状を緩和させるためのものです。

症状がよくなったからといってそのままにすると、またすぐに再発してしまいます。

治療費について

歯根膿瘍の治療にかかる費用は、一般的な抜歯治療で150,000円程度です。

周囲の歯や骨の状態、動物病院によっても異なるので、かかりつけの動物病院に確認しましょう。

歯根膿瘍の予防とアフターケア

歯根膿瘍の予防や治療後の再発防止には、継続的なケアが必要です。歯根膿瘍の原因となる歯の損傷と歯周病を防ぐためには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。

硬いものをかませない

歯にひびが入ったり折れたりするのを防ぐ方法は、わんちゃんの歯を傷つけるような硬いものをかませないことです。具体的には、骨や角、木、硬いプラスチック製のおもちゃなどを与えないようにしましょう。

かむことが好きなわんちゃんには、硬すぎない素材で楽しめるおもちゃをあげてください。

デンタルケアで歯周病予防

歯根膿瘍のもう一つの原因である歯周病は、日常的なデンタルケアで予防できます。毎日歯ブラシを使って歯を清潔に保つことで、歯垢や歯石の蓄積を防ぐことが大切です。

また、定期的に動物病院で歯科検診を受け、歯や歯茎の状態を確認してもらうことをおすすめします。

まとめ

今回は、目の下の腫れなどを引き起こす歯根膿瘍について解説しました。

硬すぎるおもちゃは歯を傷つける危険があり、歯根膿瘍の原因にもなるので注意が必要です。また、毎日の歯磨きで歯周病の予防を心がけ、お口の健康を守ってあげましょう。

歯根膿瘍の症状や治療について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

担当医師のご紹介
二子玉川院 院長 岡田 純一

KINS WITH動物病院、院長の岡田純一です。当院では愛犬さん、愛猫さん、ご家族の抱えるトラブルに対し、症状をなくすことはもちろん、なるべく根本から解決することを目指しています。
高性能な機器を用いた安全で正確な処置はもちろん、常在菌に着目したアプローチや、お家での生活に対するアドバイスまで丁寧に対応致します。
もちろん手技の技術を向上させるための鍛錬も日々欠かさず行なっております。
愛犬さん、愛猫さんとご家族が元気いっぱいで幸せな時間をなるべく長く過ごすお手伝いができるよう、努めて参ります。よろしくお願い致します。